3月の上旬は、大学の合格発表が続く季節です。
寒さの名残の中に、ふと春の気配が混じりはじめる頃。新しい生活へと踏み出す人たちの節目の時期でもあり、なぜかこちらまで少し気持ちが浮き立ってきます。
そんな季節になると、毎年決まって思い出すことがあります。
思い出すというより、心のどこかに引っかかっていて、ふとした拍子に顔を出す——そんな出来事です。気がつけば、もう20年近くも気にし続けています。
とても個人的な体験なので、他の人にとっては取るに足らない話かもしれません。
それでも私にとっては、喉に引っかかった小さな魚の骨のように、ずっと引っかかったままの記憶です。
だから今年こそ、そのことにきちんと向き合って、ひとつの区切りをつけてみようと思います。
20年以上前の大学の合格発表前夜に見た不思議なテレビ番組の記憶
まずは、私が何をそんなに気にしているのか。
当時の個人的な記憶を書いておこうと思います。
当時の私は、実家のある新潟に住む大学受験生でした。
1月中旬に「センター試験」を受け、2月下旬に志望大学の二次試験(前期)を受験。そして3月上旬にその合格発表、というのが一連の流れです。もし前期で不合格だった場合は、3月下旬に後期試験が控えているため、この時期はまだ受験勉強を続けているような段階でもありました。
ただ、前期の二次試験については、試験が終わったあと、すっかり暗くなった大学キャンパスを歩いて宿泊先のホテルへ向かう途中で、なぜか直感的に「こりゃ多分受かったな。。。」と思いました。
そのため新潟に戻ってきてからも、後期試験の勉強にはいまひとつ身が入らない、そんな状態でした。
そして迎えた、3月上旬の合格発表前夜。さすがに緊張して寝つけず、とはいえ後期試験の勉強をする気にもなれず、リビングでだらだらと深夜テレビを見ていました。
コタツに潜り込みながらテレビを眺めているうちに、いつの間にか寝落ち。
早朝になって母に起こされ、いったん自分のベッドに戻って二度寝。そして午前10時ごろ、受験した大学からレタックス(電子郵便)が2通届き、母に叩き起こされて開封し、そこで合格を知る——そんな流れでした。
当時はまだインターネット黎明期で、オンラインで合否を確認できる仕組みはありません。届いたレタックスのうち1通は、合格者のみに送られる合格通知。もう1通は、希望して手数料を支払った受験生全員に送付される、合格番号が機械的に並んだ一覧表でした。
さて、私が20年以上も気にし続けているのは、まさにその合格発表前夜に見ていた深夜テレビの番組です。
内容は、アメリカのジャズだったのか、ブルースだったのか——いずれにしても、アメリカの古い音楽の歴史を延々と紹介していくような、やけに渋い番組だったというおぼろげな記憶があります。
ただ、当時の私は、そんな音楽に特別強い関心を持っていたわけでもない田舎の受験生です。
なぜ合格発表前夜にそんな番組を見ていたのか。それに、寝落ちするほどの深夜——おそらく午前2時前後の時間帯に、本当にそんな番組をやっていたのだろうか。
さらに言えば、20年も経つと、別の時期に見た番組と記憶が混ざっている可能性だってあるような。
「結局、あの夜に見ていたテレビ番組は何だったのか。
それとも、私の記憶があとから勝手に混ざって混乱しているだけなのか。」
その後の人生に影響するような話ではありません。だからこそ、20年以上も気になりながら、ずっと放置してきました。
けれど、今年もまた大学の入試や合格発表のニュースが流れる季節になり、やはりあの夜のことが気になってしまう。今年こそ、この長年のモヤモヤに、決着をつけてみようと思います。
謎を解明するための作戦は?
では、その謎をどうやって解くのか。
方法自体は極めて単純です。当時の新聞に載っているテレビ番組欄を確認すればいい。それだけの話です。
ただし問題は、その手段でした。
新聞の縮刷版は図書館で閲覧できます。とはいえ、当時私が住んでいたのは新潟。つまり、新潟ローカルのテレビ番組表を確認する必要があります。
新潟県内の図書館に行けば、ローカル紙である「新潟日報」の縮刷版などが置かれているはずですが、関東の一般的な図書館では、さすがにそこまで揃っていないことが多いでしょう。
そこで東京にある国内最大の図書館、国立国会図書館です。
東京本館には全国の新聞の縮刷版やマイクロフィルムが収蔵されており、一般利用者でも閲覧することができます。
というわけで今回は、ここへ行って調べてみることにしました。
国立国会図書館へ
国立国会図書館は名前の通り国会議事堂と道路を挟んだ向かい側、日本の中枢にあるのです。
永田町駅の2番出口を出たら国会議員会館が3つ並んでいます。

向かって右側手前から参議院議員会館、衆議院第2議員会館、衆議院第1議員会館、その先には写ってないけど総理官邸があるはず。この日は土曜日で、議員会館はひっそりとしています。議員会館と道路を挟んだ反対側には国会議事堂があります。
街頭には日本の国旗とカナダの国旗が掲げられていますが、こういう場合は相手国政府の要人が外交で来日している時です。調べたらカナダのカーニー首相が来日しており、3月6日に高市首相と面談されたようです!(この写真は翌3月7日に撮影しています。)
本日の目的は国会図書館なのでさっそく向かいます。永田町駅の2番出口を出ると目の前に国会図書館が見えているのですが、敷地・建物が大きいので回り込むように5分くらい歩いて入口に到着。

とても良い天気。地下鉄と歩きで来たのは正解でした。

ベンチに何かいるぞ!と一瞬びっくりしたのですが、、、

入口の前にあったのは、彫像でした。
さすがは国立国会図書館、どことなく芸術の香りも漂っています。作品は津田裕子氏によるもの。等身大の現代の女性をかたどった彫像は、これまであまり見たことがなく、少し新鮮な印象を受けました。
さて、いよいよ国立国会図書館へ入館。
実は今回が初めての利用で、まずは利用者カードを作るところから始まります。身分証明書(運転免許証など)があれば、その場ですぐにカードを発行してもらえます。
なお、館内は撮影禁止(スマホのカメラ機能も含めて)なので、館内の写真はありません。
今回の目的である新聞資料が集められているのは、新館4階の「新聞資料室」。
ここには全国紙はもちろん、地方紙、業界紙、政党紙、スポーツ紙など、日本で発行されたほぼすべての新聞が保存されているそうです。
もっとも、新聞をそのまま紙で保管するのは大変なので、古いものはマイクロフィルムの形で保存されています。
過去の新聞記事を調べたい場合は、対象となる新聞のマイクロフィルムを書庫から出してもらい、専用の閲覧機で確認します。必要であれば、複製を申請して写しを持ち帰ることもできます。
20年以上の曖昧な記憶にある大学合格発表前夜に見た番組は特定できるのか?
さっそく新聞資料室で、私が大学受験をした年の3月上旬の「新潟日報」のマイクロフィルムを取り寄せ、閲覧機にマイクロフィルムをセットし、画面をスクロールしながらテレビ欄を、深夜帯を中心に片っ端から確認していきます。
しかし、私が見たはずの番組はなかなか特定できません。そもそも、新聞のテレビ欄というのは、深夜番組になると番組名が略称で載っているだけがほとんど、内容までは分からない番組も少なくありません。渋いジャズやブルースを特集した番組か、わからないのです。
私は肝心の当時の大学の合格発表日を覚えておらず。おそらく3月5日から9日くらいの間ではないか、という程度のあやふやなもの。
せめて合格発表の日付だけでも特定できれば、と思うのですが、インターネットで当時の大学の合格発表日の記事が無いか探してみたのですが、受験したのは20年以上も前の話です。さすがに当時の合格発表日の情報は見つけることができませんでした。
合格発表を特定できないか考えているうち
——ふとひらめきました。
私が受験した大学は北海道にある大学です。
ということは、合格発表の様子(在校生に胴上げされていたり合格者にインタビューしていたりとかそういう様子)が北海道の新聞で報じられている可能性があるのではないか。
さっそく当時の3月上旬の「北海道新聞」のマイクロフィルムを取り寄せ、紙面を追っていくと——
ついに、合格発表の記事を見つけました。

合格発表日は3月7日! なので、合格発表前夜は3月6日です。
北海道新聞から新潟日報のマイクロフィルムに戻って、この3月6日の新潟日報のテレビ欄の深夜帯はこちら。

このほかにNHKとNHK教育の欄も確認しましたが、こちらは明らかに音楽番組ではありません。
当時の新潟で見られた民放は4局。となると、このどれかのはずです。ただ、番組名だけでは内容がまったく想像できません。
一番左のBSNには「P・S」と「Veep」。
ただし、どちらも15分番組です。私が寝落ちしてしまうほど見続けていたことを考えると、さすがにここまで短い番組ではなかったような気がします。
左から2つ目のNSTには「LIVE」。
名前だけ見ると音楽番組っぽく、可能性はありそうです。ただ「LIVE」というタイトルだと、当時流行していた音楽を紹介するような内容か?正直なところ、よく分からないのですが、とりあえず候補のひとつ。
左から3つ目のTeNYを見ると、「m・m・m」と「Music・ルーツ」。
「m・m・m」はやはり内容が分かりませんし、これも短い番組なので違うような気がします。一方で「Music・ルーツ」は名前からして音楽に関係ありそう。こちらも候補です。
そして一番右のNT21は「見せてⅡ」と「千両箱!!」。
内容は分かりませんが、番組名の雰囲気からして、アメリカの古い音楽とはあまり縁がなさそうに感じます。
こうして並べてみても、決め手がありません。
最後は力業です。「候補の番組名」+「テレビ番組」として、インターネットで検索していきました。
その結果——どうやら、私が当時見ていたのは「Music・ルーツ」という番組だったようです。
当時この番組を見ていた方が、ブログなどで記憶を書き残しており、その内容が私の記憶とかなり重なる内容です。おそらく、間違いないでしょう。


いやー、長年の疑問が解けて、本当にすっきりしました。
結局、番組そのものの映像や動画までは見つけることができませんでしたが、調べていくと、どうやら記憶どおりかなり渋い内容の番組だったようです。20年以上も前のぼんやりした記憶が、思いのほか正確だったことも、ちょっと嬉しい発見でした。
それ以上に、今回の調べものそのものが、とても楽しくて不思議な体験でした。
当時の新聞のマイクロフィルムをめくっていくと、テレビ欄だけではなく、その頃のニュースや世の中の空気も目に入ってきます。すると、当時の実家での生活や周囲の出来事なども、自然と思い出されてきました。
あの合格発表前夜の出来事をひとつずつ辿っていくうちに、まるで当時の自分を現在から俯瞰しているような、不思議な感覚になったのです。
新潟の実家のリビングで、コタツに潜り込みながら深夜テレビをぼんやり眺めていた受験生の自分。
その姿を、20年以上経った今の自分が、図書館のマイクロフィルム閲覧機の前で探している——。
そんなふうに、時間を少し飛び越えるような調べものができたのは、なかなか楽しい体験でした。
というわけで、これから受験だったり就職試験だったりを迎える皆さん。
もし合格発表前夜に、何かちょっとした「記憶が少し混乱するような仕込み」をしておくと、20年後に思いがけず楽しい調べものができるかもしれません。
おすすめです。

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