日本近海にいるアザラシは全部で5種類。それぞれ北海道沿岸に住んでいたり、冬になると流氷とともにやってきたりします。ここでは日本近海にいるアザラシ各種の基礎的な情報やそれぞれの見分け方を紹介します。巻末には日本のアザラシを含む世界の鰭脚類の分類も載せておきました。
日本近海に生息するアザラシ5種の基礎的な情報
ゴマフアザラシ(Phoca largha)
和名:ゴマフアザラシ(胡麻斑海豹)
英名:Spotted Seal
学名:Phoca largha
日本近海に生息するアザラシの中で、日本人にもっとも名前が知られたアザラシだと思います。そして日本の水族館・動物園で最も多く飼育されているポピュラーなアザラシでもあります。
大人個体で、体重 70~110kg・体長1.5~2mくらい。アザラシの仲間としては中型サイズの種。水族館や動物園で間近に実物を目にすると「案外でかいなー」という印象です。人間の大人と同じ位の大きさですからね。
ゴマフアザラシはオスとメスで大きな体格差はありません。(全体的には若干オスが大きいらしいですが、見た目ではよくわかりません。)
寿命は25年ほどとされていますが、餌の供給やバランス、医療が整っている飼育下では長生きする個体もいます。海獣王国・おたる水族館では40歳以上の天寿を全うした個体もいましたし、聖地・オホーツクとっかりセンターの飼育個体は30歳前後がざらになっています(2022年10月現在)。
漢字では胡麻斑海豹と書くように、胡麻のような斑模様がこの名前の由来になったのでしょう。なお「ゴマアザラシ」ではないので留意ください。ちなみに英語の名前はSpotted Sealで、外国の人も斑点(spot)模様の特徴から名前をつけたのですね。
ゴマフアザラシは秋口に日本・北海道の沿岸にやってきて、春になると北に戻っていくのがセオリーですが、最近では夏場の北海道で見かけることも。私の個人的経験で恐縮ですが、北海道の積丹半島以北の日本海側~宗谷岬を回ってオホーツク海側~知床半島、知床岬を回って、根室半島くらいにかけてよく見る印象です。北海道の太平洋側にもいるとは思いますが、私はあまり見かけたことはないです。
ゴマフアザラシといえば赤ちゃんの白~クリーム色の産毛をまとった姿が印象的でありますが、白いのは産まれて2週間くらい。あっという間に大人模様になります。”赤ちゃんが水族館で産まれて一ヶ月位たって見に行ったらもうすっかり大人と同じ模様になっててがっかり”という話はよく聞きますので、もし白い毛に包まれた赤子を見たいなら、産まれたらすぐ見に行きましょう。ただ私の個人的嗜好では赤子の白い姿より大人のゴマフ模様の方が好きです。
そしてゴマフアザラシは近年では北海道では漁業被害を出す存在となっています。漁業者にとっては死活問題。無邪気に「アザラシが好き」、とか言っていますが、一方でアザラシに泣いている人がいることも認識しなければなりません。何とか共存していく手を考えたり、共存に向けて協力したりしたいものです。
ゼニガタアザラシ(Phoca vitulina)
和名:ゼニガタアザラシ(銭形海豹)
英名:Harbor Seal もしくはCommon Seal
学名:Phoca vitulina
”日本近海に定住するアザラシ”と紹介されることが多いアザラシ。実際、北海道の襟裳岬や大黒島で年中観察できます。最近はゴマフアザラシの中にも夏の間も北海道に居座る個体も出てきているので、本種のみが日本に定住するアザラシの種としてするかは微妙になってきているのかもしれませんが…。
名前は体の模様が穴の開いた銭のような模様だから。漢字で書けば銭形海豹ですね。
このゼニガタアザラシ、英名がCommon Seal(一般的なアザラシ)とされるように北半球に広く分布する種であります。
特に日本に分布する個体群は体表の黒い部分が大きい暗色型とされる個体群です。確かに英名の”Common Seal”でgoogleの画像検索をして、引っかかってくる画像を見ると、日本のゼニガタアザラシに比べて色が薄く、むしろ日本のゴマフアザラシに近い見た目をしているように思いました。
実際ゴマフアザラシとゼニガタアザラシは属が同じ近縁種で、一緒に暮らしていたり、水族館で雑種を作った例などがあります。
寿命は同属のゴマフアザラシと同じくらいで25~30年程度で、飼育下では40年前後生きる個体もいます。
ゼニガタアザラシの幼獣は産まれたときから大人と同じ黒い部分が多い銭形模様。ゴマフアザラシの幼獣のような白い毛には覆われてません。ゼニガタアザラシは、お母さんのお腹にいる間に白い毛は抜け落ちてしまって大人模様で生まれてくるそうな。これは岩礁帯の上で出産するゼニガタアザラシの岩のような黒っぽい色が保護色であり、流氷の上で出産するゴマフアザラシの氷や雪のような白色が保護色であることに適応した進化ともいえます。
ゼニガタアザラシもゴマフアザラシと同様に近年では漁業被害が問題になっています。特に襟裳岬周辺では漁業者との軋轢も生じています。ゴマフアザラシと同様、産業・人間生活と本種の共存を願うばかりです。
ワモンアザラシ(Pusa hispida)
和名:ワモンアザラシ(輪紋海豹)
別名フイリアザラシ(斑入海豹)
英名:Ringed Seal
学名:Pusa hispida
ワモンアザラシは、アザラシの中では最も小型のアザラシです。確かに非常に小さいので、ゴマフアザラシやアゴヒゲアザラシと並んでいると、これらの種の子どもと勘違いされることもしばしば。
またワモンアザラシは日本近海に生息するアザラシの中では最も個体数が多いアザラシで、アザラシ類の中でもカニクイアザラシに次いで個体数が多い。
名前の由来は体の表面の輪っかのように見える模様から。ワモンアザラシも和名・英名とも体の表面の模様を名前の由来にしていますね。
海獣王国・おたる水族館が2004年に飼育下の繁殖に世界で初めて成功した種でもあります。
冬になると流氷の上で出産するので、白い毛に覆われた赤ちゃんを産みます。
クラカケアザラシ(Histriophoca fasciata)
和名:クラカケアザラシ(鞍掛海豹)
英名:Ribbon Seal
学名:Histriophoca fasciata
名前の由来は首から前足~腰に掛けて独特の白い帯のような模様が、馬の鞍を掛けたように見えることからです。この模様はオスの成獣にはっきり見えるのですが、写真の生体個体は若いメスなので特徴的な模様がはっきりしません。一番下のはく製の写真が、模様はイメージしやすいですね。
英名もこの独特の模様から名付けられたようでRibbon Sealです。
冬になると流氷の上で出産するので、白い毛に覆われた赤ちゃんを産みます。
日本近海に生息する&こちらで紹介したアザラシ5種の中では、日本の水族館や動物園等で飼育されている事例が最も少ない種になります。
アゴヒゲアザラシ(Erignathus barbatus)
和名:アゴヒゲアザラシ(顎鬚海豹)
英名:Bearded Seal
学名:Erignathus barbatus
日本近海でみられるアザラシではもっとも大型の種です。名前の由来は見たまんまのもじゃもじゃの髭からですね。
他4種ともだいぶ見た目が異なりますし、群れを作らず単独性の強い種です。
単独性で流氷の季節になると日本に近づいてくる種なので、野生個体を見ることは極めて珍しいと思われます。が、21世紀初頭にアゴヒゲアザラシの子どもが、東京都の多摩川に現れ、タマちゃんと名付けられた事例がありました。このタマちゃん騒動を今調べてみると、2002年のことで、もう20年前。
リアルタイムであの騒動の記憶がある方にとっては、多摩川にアゴヒゲアザラシが現れたことより、あの騒動がもう20年前になるということのほうが衝撃ではないかと思います…!
タマちゃん騒動を知っているのがおっさん世代以上になりつつあるのが若干しんみりします。
日本近海に住むアザラシ5種の見分け方
アザラシの種の見分け方の解説です。アザラシの種を見分けるときは大きさと模様などの外見的な部分によるところが大きいです。ここでは日本近海に住む5種(ゴマフアザラシ・ゼニガタアザラシ・ワモンアザラシ・クラカケアザラシ・アゴヒゲアザラシ)の見分け方のポイントを解説します。
この見分け方をマスターすれば、こんな画像認証が出てきても、落ち着いて対応できるはず。
この画像の詳細解説はページ下のほうに掲載しておきます。その前に各アザラシの見分けるポイントを紹介いたします。
アゴヒゲアザラシを見分けるポイント
まず、一番簡単なアゴヒゲアザラシ。体が圧倒的に大きく、名前の通りアゴヒゲがもじゃもじゃしています。目立った体の模様はありません。間違うことは無いでしょう。
クラカケアザラシを見分けるポイント
次いでわかりやすいのがクラカケアザラシかな。名前のとおり、馬に鞍を掛けたようなリボン状の模様が特徴です。斑点やリング状の模様はありません。
ワモンアザラシを見分けるポイント
あとの3種のゴマフアザラシ・ゼニガタアザラシ・ワモンアザラシが模様から見抜くには若干ややこしいかもしれません。
まずワモンアザラシの見分けるポイント。この種は他の種に比べて、体が圧倒的に小さいです。そして体の模様は、漢字名の輪紋海豹・英名のRinged Sealのとおり、リング状の模様が顕著です。、、が、換毛期前だったり、個体差だったりで、模様が不明瞭な時もあるので、やはり体の小ささが最大のポイントかな。
ゼニガタアザラシとゴマフアザラシを見分けるポイント
次いでゼニガタアザラシとゴマフアザラシ。この2種は体の大きさにあまり差はないですし、模様が似ていることもあります。
ゼニガタアザラシが黒地に白のドットが入り、ゴマフアザラシが白地ベースに黒の模様が入ることが多いです。つまりゼニガタアザラシのほうが黒が強く、ゴマフアザラシのほうが白が強い。特にお腹や顔の色が顕著で、お腹側や顔が黒っぽかったらゼニガタアザラシ、白かったらゴマフアザラシなことが多いです。
しかし中には、微妙な感じの模様の個体もいて悩ましい。自然界でこの二種が同じ場所で見られる事は極めて稀ではあるのですが、水族館では混ぜて飼育しているケースもあるので、見分けたい欲求はあるのです。
この2種の写真は一緒に並べて、以下で紹介します。
【演習問題】ゴマフアザラシとゼニガタアザラシの見分け方
海獣王国のおたる水族館では、ゴマフアザラシとゼニガタアザラシ2種を同じプールで飼育しています。このプールで混ざって飼育されているアザラシたちの写真を活用して、ゴマフアザラシとゼニガタアザラシの見分け方を習得しましょう。
問題編
以下の画像に写っているアザラシについて、ゴマフアザラシかゼニガタアザラシかお答えください。なお、以下の画像にゴマフアザラシとゼニガタアザラシ以外の種のアザラシは写っていません。
(それぞれの画像はクリックすると大きくなります。)
回答編
(回答編とはしたものの、”管理人はこんな感じだと思う”くらいが正しいのかもしれません。当然ながらおたる水族館の公式回答ではありませんので、間違っていたらごめんなさい。どちらの種か、結構怪しい模様の個体もいるんですよね。。。)
各種の見分け方を習得すれば、ハイレベルな画像認証が出てきても突破できるはず。繰り返し演習し、見分け方を習得し、素敵なアザラシライフを送りましょう。
さて、上に掲載したゴマフアザラシを選択してください画像の答えと解説です。答えは以下のとおりです。
我ながら難問・奇問だったような気がしており、特に全身が写っていなくて顔部分のアップなので、難しいです。私は全部自分で写真を撮ったので把握していますが、同じような試験を受けたら間違うかも。。以下解説や説明です。
①②③はそれぞれの種の標準的な姿と思いますので、易しいです。
④のワモンアザラシのこむすびは相当難しい。ワモンアザラシの特徴であるリング状の模様が顔にはあまり見られない時の写真で、またワモンアザラシの特徴である体の小ささがこの写真からは分からないので。
⑤のアゴヒゲアザラシは易しいと思います。おたる水族館のウパウパかパオパオかノンノン。
⑥も易しいと思います。とっかりセンターのコムケ。
⑦は難問。産まれたばかりの白い毛をまとったゴマフアザラシの幼獣ですが、ゴマフアザラシと同様に産まれた時に白い毛をまとってくるクラカケアザラシ・ワモンアザラシと見分けるのは相当難しいはず。飼育下で生まれる赤ちゃんは、ほぼゴマフなので、そこで当たりはつくのですが。。。
⑧はスタンダードなゴマフアザラシの姿だと思います。
⑨は難しいと思います。④と同じく体の小ささは分からないですからね。この写真は世界初の飼育下で繁殖に成功したワモンアザラシのワモル君の1歳のころの写真なのですが、ぱっと見はゴマフアザラシの模様っぽいかも。実物を見てみると小さい体なので、ワモンアザラシだとわかるのですが。。。
(参考資料)世界に生息する鰭脚類の分類
鰭脚類(アシカ・セイウチ・アザラシ3科)の種名リストです。種名が太字で備考に◎がある種は日本近海に生息する(生息していた)種です。
科名 | 属名 | 和名 | 学名 | 備考 |
---|---|---|---|---|
アシカ科 | ミナミオットセイ属 | ミナミアメリカオットセイ | Arctocephalus australis | |
アシカ科 | ミナミオットセイ属 | ニュージーランドオットセイ | Arctocephalus forsteri | |
アシカ科 | ミナミオットセイ属 | ガラパゴスオットセイ | Arctocephalus galapagoensis | |
アシカ科 | ミナミオットセイ属 | ナンキョクオットセイ | Arctocephalus gazella | |
アシカ科 | ミナミオットセイ属 | フェルナンデスオットセイ | Arctocephalus philippii | |
アシカ科 | ミナミオットセイ属 | ミナミアフリカオットセイ | Arctocephalus pusillus | |
アシカ科 | ミナミオットセイ属 | グアダルーペオットセイ | Arctocephalus townsendi | |
アシカ科 | ミナミオットセイ属 | アナンキョクオットセイ | Arctocephalus tropicalis | |
アシカ科 | キタオットセイ属 | キタオットセイ | Callorhinus ursinus | ◎ |
アシカ科 | トド属 | トド | Eumetopias jubatus | ◎ |
アシカ科 | オーストラリアアシカ属 | オーストラリアアシカ | Neophoca cinerea | |
アシカ科 | オタリア属 | オタリア | Otaria byronia | |
アシカ科 | ニュージーランドアシカ属 | ニュージーランドアシカ | Phocarctos hookeri | |
アシカ科 | カリフォルニアアシカ属 | カリフォルニアアシカ | Zalophus californianus | |
アシカ科 | カリフォルニアアシカ属 | ニホンアシカ | Zalophus japonicus | ◎ 絶滅 |
アシカ科 | カリフォルニアアシカ属 | ガラパゴスアシカ | Zalophus wollebaeki | |
セイウチ科 | セイウチ属 | セイウチ | Odobenus rosmarus | |
アザラシ科 | ズキンアザラシ属 | ズキンアザラシ | Cystophora cristata | |
アザラシ科 | アゴヒゲアザラシ属 | アゴヒゲアザラシ | Erignathus barbatus | ◎ |
アザラシ科 | ハイイロアザラシ属 | ハイイロアザラシ | Halichoerus grypus | |
アザラシ科 | クラカケアザラシ属 | クラカケアザラシ | Histriophoca fasciata | ◎ |
アザラシ科 | ヒョウアザラシ属 | ヒョウアザラシ | Hydrurga leptonyx | |
アザラシ科 | ウェッデルアザラシ属 | ウェッデルアザラシ | Leptonychotes weddellii | |
アザラシ科 | カニクイアザラシ属 | カニクイアザラシ | Lobodon carcinophaga | |
アザラシ科 | ゾウアザラシ属 | キタゾウアザラシ | Mirounga angustirostris | |
アザラシ科 | ゾウアザラシ属 | ミナミゾウアザラシ | Mirounga leonina | |
アザラシ科 | モンクアザラシ属 | チチュウカイモンクアザラシ | Monachus monachus | |
アザラシ科 | ハワイモンクアザラシ属 | ハワイモンクアザラシ | Neomonachus schauinslandi | |
アザラシ科 | ハワイモンクアザラシ属 | カリブカイモンクアザラシ | Neomonachus tropicalis | 絶滅 |
アザラシ科 | ロスアザラシ属 | ロスアザラシ | Ommatophoca rossii | |
アザラシ科 | タテゴトアザラシ属 | タテゴトアザラシ | Pagophilus groenlandicus | |
アザラシ科 | ゴマフアザラシ属 | ゴマフアザラシ | Phoca largha | ◎ |
アザラシ科 | ゴマフアザラシ属 | ゼニガタアザラシ | Phoca vitulina | ◎ |
アザラシ科 | ワモンアザラシ属 | カスピカイアザラシ | Pusa caspica | |
アザラシ科 | ワモンアザラシ属 | ワモンアザラシ | Pusa hispida | ◎ |
アザラシ科 | ワモンアザラシ属 | バイカルアザラシ | Pusa sibirica |
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