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シマフクロウが来る宿~2014夏・北海道旅行・その7~

北海道旅行3日目。知床の海でダイビングを終えた後はすでに夕方です。

しかし今日はもう一個メインイベントが控えているのです。

本州には分布しない野生動物がたくさんいる北海道、例えばタンチョウ、ヒグマ、エゾシカ、キタキツネ、トド、オオワシ、エゾモモンガ、エゾナキウサギ、ゴマフアザラシ、、、まだまだたくさんいますが、そんな北海道限定っぽい動物の中でも観察するのがとても難しく、そして一度は見てみたいと憧れる動物がシマフクロウではないかと思います。今日の夜はこのシマフクロウを見ます。

シマフクロウが見たい!

少しシマフクロウの紹介です。シマフクロウは学名はKetupa blakistoni。名前にブラキストンを持つまさに北海道を代表する生物。アイヌ民族からは集落を守る神と崇められていました。
シマフクロウは日本に生息するフクロウの中で最大のフクロウで、森を流れる河川域に生息し魚などを餌として広葉樹の大径木に巣を作るという人間の開発の影響を真っ先に受けそうな生態を持ち、事実北海道でも数が激減し今は道内には200羽程度しかいないとされています。そしてフクロウの仲間ですから活動時間帯は夜。こんな生態を持つ生き物ですから「野生のシマフクロウを見たい!」と思ってもシマフクロウが来る川に行っていつ真っ暗な森でライトを付けずに待つのは人間にとってもなかなか難儀ですし、ただでさえ数が激減している野生のシマフクロウの活動域に踏み込み、夜の活動時間帯にシマフクロウを見るために待つというのは、シマフクロウの繁殖活動に影響を与えかねず、あまり褒められた行為では無いと思います。私も北海道に7年住んでいましたが、その間に野生のシマフクロウを見たことはありませんでした。

「鷲の宿」で宿泊&宿周辺の状況について

何もない森で野生のシマフクロウを探すのはなかなか大変ですが、ある程度の確率で野生のシマフクロウを見られる場所が道内にも何箇所かあり、その筋の方には有名です。いずれも宿泊施設でその周辺にシマフクロウがやってきます。そのような宿の一つが羅臼の民宿「鷲の宿」。今回の旅行ではぜひシマフクロウを見ようと思い立ち、こちらに2連泊することにしました。
能書きはこのくらいにして、鷲の宿の顛末を紹介してまいります。羅臼の昆布の海でのダイビングを終え、充足感と疲労感に満たされて鷲の宿へ移動します。
鷲の宿は羅臼の中心街から車で10分かからない程度の距離で、宿から知床半島を取り囲むように伸びる道道87号線が目に入るくらいの位置。シマフクロウが来る宿なのでもっと山奥にひっそりとあるのかと思ったら、案外街に近い。

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鷲の宿へのアプローチ。左側の川に生簀が設置されて、そこに魚を放つとシマフクロウが食べに来るという仕組み。右側の普通の民家風の建物が宿泊棟で奥の茶色い建物が食事棟兼観察棟。川に向かってなにやらアンテナのような電柱のような工作物がありますが、これは投光器。夜行性のシマフクロウを観察するので投光器が必要なわけです。この投光器、最近バージョンアップされたと宿の女将さんが教えてくれました。仕組みは後述します。

左・食事棟兼観察棟、右・宿泊棟。宿泊棟は見た目の通り極普通の民家。民宿ですから。外見は古っぽいですが、中はリフォームされていてトイレも含めきれいです。ただし2階はリフォームされていない由です。私は1階の部屋に泊まりました。
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宿の向かいの山。あまり高く無い山。この森の中にシマフクロウがいると思うとわくわくします。野生動物を見に行くときの「会えるかな?」というどきどき感が楽しいのかもしれません。

しかし夕方になって霧が若干出てきました。夏の羅臼は霧の季節。むしろ霧が出ない日のほうが珍しいかも。この日も日中のダイビング中は珍しくすっきりと晴れていましたが、夕方からは霧っぽくなってきました。
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観察棟付近から川の下流方向。川の半ばの岩に囲まれているあたりに生簀があります。写真奥の電柱が建っている道が道道87号線。
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川の半ばの生簀の様子。夕食後、生きている魚をここに入れてシマフクロウが来るのを待ちます。
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宿の上流側に少し歩くと、鳥獣保護区の看板とシマフクロウの生息地につき立ち入り禁止を促す看板がありました。
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宿の周辺をうろうろしたり、夜に備えて観察道具を揃えたりしているうちに夕飯の時間。

食事棟に集合し、ご飯を頂きます。女将さんの旦那さんが漁師さんとのことで、捕られた魚を出していただきます。キンキの煮付けが旨い!脂がのっていてこってりとしています。さすが。
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昼間のダイビングで腹が減っているので、ばくばくご飯を食べているうちに日も暮れてきます。
ご飯が終わるころ、女将さんから観察のルールを簡単に伺います。

観察のルールやシステム・撮影のコツ

シマフクロウの観察は観察棟の内部か宿泊棟の各自泊まっている部屋から観察するのに限定。生簀のある河畔に陣取るとかは無し。シマフクロウが採餌に来ている時は建物の外に出るのは禁止。
続いて投光器と撮影方法についても説明。一ヶ月前に新しい機材を導入したそうで、1/80秒間隔で、1/800秒のフラッシュを焚くシステムとのこと。シマフクロウの眼にも人間の目でも検知できない位の短い時間間隔でフラッシュが光っているらしいです。肉眼で見ている分にはまったく実感は無い。1/80間隔でフラッシュが点滅しまくっているような環境ですので、シャッタスピードをこれより遅くすると多重露出撮影になってしまうとのこと。
絞りは好きにして良さそうですが、投光器があるとはいえ暗い屋外なので開放推奨。写真の明るさはカメラのISO設定で調整するようにとのことで、全体の推奨環境はシャッタースピードは1/80、F5.6でISO6400とのこと。ISO6400って最近のデジタルなカメラじゃないときついですね(^^;
私のカメラはロートルもいいところなのでISO1600までしかいかないし、望遠の明るいレンズも無いのでどうなることやら。
またカメラの設定のシャッタースピードは1/80ですが実質的なシャッター速度はフラッシュの光の1/800で固定されるので、手振れ対策の三脚は必要ないとのこと。(使って悪いことも無いとは思いますが。)
投光器の稼働時間は環境省の指導により24時までとのこと。
と、ここまで女将さんから口頭で説明されたり、システムの説明紙があって読んで理解をしようとしたのですが、頭ではわかっても、実際にやってみないとピンと来ない。

観察開始!シマフクロウはやってくるのか

明日も泊まるし今日はどんなもんかいろいろ試してみよう、というくらいの気持ちで、単焦点の明るい標準レンズから望遠だけど暗いレンズまで一通り取り揃えて、さらに観察用に双眼鏡も用意し、観察棟で待機します。
みんなの機材が用意ができたら観察棟の川側の窓ガラスを外し、女将さんが生簀に魚を投入します。これが大体19:30頃。餌の魚は生きているヤマメとのこと。
当然、魚を入れたからといってすぐにシマフクロウが来るわけではない。相手は気まぐれな野生動物です。

ここ数日は連日姿を見せているようで、今日も来る可能性は高いだろうとのこと。しかしそれが5分後なのか3時間後なのかは誰にも分からない。。。

野生動物であるシマフクロウに対し、餌を使って投光器で光を照らしみんなで観察するというシステムですので、いろいろ意見がありそうです。私個人の考えは何年もこのシステムで人間がシマフクロウの観察を続けている中、シマフクロウもこの生簀にやってくるのを続けて、シマフクロウのつがいが子どもを産んで育てていることからも、生態自体はとても安定しているように思います。またシマフクロウを見たい人間がバラバラと夜の森に入ってむちゃくちゃにシマフクロウ探しをするよりも、この鷲の宿のような人間側の行動をコントロールできて、観察のルールを徹底できるシマフクロウの観察場があるということもシマフクロウの保護の面でも一利あるかと思います。シマフクロウの保護と観光(観察)は危ういバランスがあると思いますが、こちらは両面のバランスを取って上手く機能している例だと思います。

そんなことをつらつら思ったり、観察者で雑談したりしていると遠くのほうから「ボーボー・・・」と低い声が聞こえました。
シマフクロウの声です。

徐々にこの「ボーボー」の声が大きくなってきて、つまりだいぶ近くまで飛来しているのが分かります。オスとメスで鳴き交わしているようで、近くで「ボーボー」といったあと、遠くでもう一羽も鳴いています。
何の前触れも鳴く、羽音もなく生簀に舞い降りてきました!
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さすがフクロウだけあって全く羽音がしません。この時間が20:21。

、、、と思ったら一瞬で魚を捕って森に帰って行きました。私のほうは↑の写真を撮ったあと、「広角レンズよりやっぱり望遠がいいかな?」と暗闇で慎重にモタモタとレンズを交換しているうちに、シマフクロウは行ってしまった・・・。

シマフクロウが来なくてつらい時間帯

この日はここからがなかなか辛かった。すぐには再訪してくれません。本日、私は明るい時間帯はドライスーツを着て、ダイビングをしていますし、私はこの3日間は毎日4時起きでウロウロしていたので、さすがに眠い。。。ちなみに明日も4時起きの予定ですし。

ついに21:00に妻が脱落。いつもなら「鷲の宿に来たのに小学生並みの21時で寝るのかっ!」という気になりますが、日中のダイビングの疲労もさることながら、明朝は妻も4時に私にたたき起こされて羅臼岳に登る予定です。疲労はなるべく回復して欲しいですので引き止めません。私も眠いですもん。。。私の場合は半ば意地で起きているようなものです。

妻が去って再び目の前には暗い森と川の流れる音。観察棟は暗くしておかなければいけないですし、音も極力立てないようにしていますので、テレビなどがあるわけでもなく、真っ暗な中、無言。川の流れる音が単調で良い子守唄になり、川の向こうの木のこんもり具合がゴジラのような怪獣に見えてくる・・・。目を凝らすとやっぱり木だ、、、幻覚ではないですが、眠りに落ちる寸前だな、と自分でも分かります。
睡魔と闘うこと60分。22時になります。遠くでシマフクロウがボーボー鳴いている声はずっと聞こえるのですが、近づいてくる感じは無い。。。投光器の稼働時間は残り2時間ほど。今日はもうダメかなぁ、とあきらめも入ってきます。睡魔との戦いは一瞬気を抜くと、カメラやら双眼鏡やらを取り落としそうになる。

ついにその時が来る!

、、、そしてさらに30分。シマフクロウの声は相変わらず遠いなぁ、と朦朧としながら待っていると突然やってきました!!!遠くでボーボー鳴いていたのはオスかメスかどっちかでもう片方の個体がやってきたようです。

川向の木の枝に止まりました。投光器から遠いので姿はぼんやりとしか映っていませんが。(暗い画像を無理やり見れる程度の明るさにしていますので、ノイズがひどいですがご容赦を。。。)
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眠気も一瞬で吹っ飛びます。

そして生簀に向かってダイブ!この写真は1/25程度のシャッタスピードでカメラを振っていますので、1/80間隔で発光するストロボが何回か写ってしまい多重露出になっています。ストロボの多重露出の意味が分かりました。なるほど。。。
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シマフクロウ、生簀に到着です。
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待った甲斐がありました。今回は生簀付近に長期滞在してくれたのでじっくり観察です。
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捕った魚をくわえてます。眼力が半端無い。
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森の中に戻っていくシマフクロウ。このときも1/15くらいのシャッタースピードだったので、多重露出になってしまいました。
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シマフクロウが去ったあと、さすがに疲労で集中力も切れたので我がチームは解散。私も自室に引き上げます。

そして撮った写真を何枚か確認したのですが、↑のようにシャッタースピードを遅くしていると多重露出の写真が多くすっきりと写らない。やっぱり女将さんのシステムの説明どおりシャッターは1/80の固定が良いようです。しかしISOが1600までしか上がらない私のカメラで撮影した1/80のシャッタースピードでは明らかに光量不足・・・。

推奨環境は1/80固定、F5.6でISO6400。私のカメラはISO6400設定は出来ないので、代わりにもっと明るいレンズを使うという手もありますが、F5.6以上に明るいレンズは広角か標準レンズしかなく、シマフクロウをそれなりに写すには200~300mm辺りがちょうど良い焦点距離の感触でしたので力不足。どう考えても私のロートル貧乏機材は推奨環境は満たせない限界です。

もう開き直ってレンズは暗い望遠レンズを使用カメラ側のISOを最大にしてシャッタースピード1/80でF値は最低に設定し、あとは家に帰ってパソコンの現像で何とかする、、、ということにします。。

その辺の考えを整理した後は、「明日は四時に起きで羅臼岳登山だしゆっくり休まないとしんどいよな、、、」ということでシマフクロウのことは置いておいて、登山用に登山靴や行動食・カメラの予備のバッテリーなどを自分と妻のザックにつめこんで、起きたらすぐに出発できるように調えておきます。布団に寝ると一瞬で睡眠に入れるくらいの朦朧ぶりの中の用意です。
最後にシマフクロウが生簀に来ていないことを確認してから寝よう、、、と思って、部屋のカーテンを少し開けたら、
バリバリに魚を狙っているシマフクロウがいらっしゃいました。
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、、、まだ眠れねぇ、嬉しいのですが若干辛い(^^;

せっかく明日の登山モードのために広角レンズにしたカメラを引っ張り出し、望遠レンズに付け替え、撮影体制に。先ほどの撮影方針でいけるかの確認もしたいですし。
狩りの瞬間のシマフクロウの脚!こんな鉤みたいな脚なんですね。
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羽を広げるとやっぱり威厳がありカッコいい。羽の先端の縞模様、根本の単色という配色も素敵。
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しっかり捕まえた魚を掴んでいる立派な脚。
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捕まえた魚を嘴に持ち替えて食べていました。目が白くなっているけど瞬幕が写ったのか。
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ふとした瞬間、シマフクロウがこちらを見ます。私は屋内にいるのですが見つかっているのか。見つかっているからこんな視線を送ってくるのか。思わず萎縮します。
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7枚前に魚を加えてカメラを見ている似たような構図の写真がありますが、足環の有無が違います。足環有り(↑の個体)がオスで、足環無しがメスとのこと。
最後に魚をくわえて森に帰っていきました。
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シマフクロウをお見送りしたのが23:11。投光器は24:00まで動くようですがさすがにもう眠気が限界。
北海道三日目はダイビングにシマフクロウに長い一日でした。そして明日の四日目は朝4時に起きで知床連山最高峰の羅臼岳を目指します。疲労もたまっており体力が持つか甚だ不安ですが、もうここまで来たら仕方ない。なるようになるさーっと、短い睡眠をとります。

翌日の羅臼岳の登山の記録はこちら。

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