北海道ではアザラシなどの海獣類は漁業被害をもたらす”害獣”という側面があります。
北海道におけるアザラシを含む海獣類による漁業被害について、最新の被害状況が北海道から2020年8月に発表されました。
この件は、北海道新聞でも報道されました。記事内容は以下のとおり。
”海獣の漁業被害額、最少11憶8千万円 北海道内19年度 対策に一定の効果”
道は27日、2019年度の海獣(トド、オットセイ、アザラシ)による漁業被害額が比較できる09年度以降、過去最少の11億8461万円だったと発表した。花火弾による追い払いなどの対策に一定程度の効果があったとみられる。(中略) 漁業被害額が過去最少だった理由について、道水産振興課は「追い払いや強化網などによる対策の効果が出たり、餌が減り沿岸への来遊が少なかったからではないか」とみている。シャチによる漁業被害額も現在、全道の各漁協から収集している。(北海道新聞)
北海道がまとめている海獣による漁業被害に関する最新データが公表されたのです。上述の記事では丸めて書いてありますが、こちらの北海道庁のサイトで詳細データ(海獣類による漁業被害状況(pdfファイル)(令和2年8月27日更新) )を見ることができます。このpdfファイルは被害額の数字と地名と海獣の種名の羅列で、さらっとした内容で、解釈は読み手側に委ねられているような内容ですが、これがなかなかの衝撃内容。北海道の海獣マニアはこれを眺めているうちに、長時間経ってしまうような内容です。
この詳細データの1枚目の表から、実に興味深いです↓
海獣類による漁業被害の総額は20~25億円前後をうろうろしていましたが、2017年から減少傾向にあり、2019年度は11億8千万円。確かにこの数字は統計がある年度の中では最小で、先の北海道新聞の記事のとおり。
これだけでもなかなかのインパクトですが、さらに種別内訳をみるとアザラシの数字は衝撃的です。2010年頃は8500万円ほどだった被害額が上昇し、2013年から2018年まで2.5億~3.0億円で推移していたのが、2019年は1.43億円と半減しているのです。上の新聞記事では北海道の担当課が「対策の効果が出てきた」「来遊そのものが減っている」ことを被害額の減少要因として推測コメントを出しています。もう一つ、そもそも漁業が衰退して、従事者が減っているとか、漁業活動が減っており、被害額も減っている、、、というのもあるかもしれません。
ただいずれにせよ、要因としては理解はできるのですが、前年度比で大幅減、特にアザラシに関しては半減以下になっているので、理解が追い付かない、、、というのが私の感覚です。単年の被害額だけではなく、しばらく被害額の推移は見てみたいといったところです。
またアザラシ以上の被害額を計上するトドの被害額のすさまじさですね。体の大きさがアザラシとは比べ物になりませんからね。
2枚目の表がこちら。
地域(振興局)別にまとめた表。なお各地名の位置はこんな感じです。↓
地域によって漁業者人口や漁業形態も違うので、被害額が大きい=海獣が多いではないと思いますが、それでも妄想を含め、思うことがあります。
宗谷…北海道最北地域。全体的に海獣被害が大きい。アザラシとトドの被害はぶっちぎりの道内1位。確かにトドやアザラシが濃いイメージがあります。このサイトで取り上げているアザラシ生息地としては抜海港・礼文島・利尻島・宗谷岬辺りが宗谷地域になります。ノシャップ寒流水族館も宗谷地域ですね。
留萌…まあまあ被害額が大きい地域です。個人的イメージではアザラシも多くいる地域です。ただ人口、漁業者人口もそれほど多くなく、統計の被害額としてはそれほど計上されていないのかも、と思いました。留萌地域にあって当サイトですでに掲載しているアザラシ生息地は天売島・焼尻島です。
石狩…札幌などが含まれる日本海側地域です。海獣の漁業被害がトドのみ。確かにトドが多い地域のイメージはあるけど、被害を出しているのが全部トドというのもすごい話です。
後志…小樽や積丹半島の辺りで、北海道の中部~南部辺りになります。ここはトドやオットセイの被害が大きい。大体イメージ通りです。アザラシ生息地としては積丹岬・神威岬・おたる水族館周辺を紹介しています。
檜山・渡島・胆振…北海道の南部地域。海獣の被害額も小さい。特にアザラシの被害額は0ですね。個人的にも海獣のイメージは薄い地域です。
日高…北海道南部でゴマフアザラシのイメージはない地域ですが、ゼニガタアザラシの生息地として著名な襟裳岬がある地域。漁業が比較的盛ん&魚種がアザラシが食べるのとバッティング&定住するゼニガタアザラシということで、アザラシの被害額が大きいのかなと思いました。トドやオットセイがいないのも個人的なイメージと合致します。
十勝…ゼニガタアザラシ定住地がある日高地域と釧路地域の中間地点!という感じで、被害額も若干控えめなのもイメージ通り。十勝というと十勝平野の広大な畑作のイメージですが、広尾地域のいては襟裳岬近くで漁業も行われている地域です。納得の数字です。かつてはひろお水族館もありましたね。
釧路…ゼニガタアザラシ定住地の大黒島があり、北海道太平洋岸から北方領土にかけて徐々にゴマフアザラシの影が濃くなるイメージです。やはりそれなりにアザラシの被害額が大きいですね。
根室…アザラシが定住する野付湾や風蓮湖、また知床半島南側を抱える地域。アザラシの影も濃くなりアザラシ被害額は宗谷に次ぐ全道第2位。トド・オットセイの被害額も大きく海獣による漁業被害額も全道第3位。
オホーツク…実はこの地域のデータがある意味一番の衝撃でした。とっかりセンターがある紋別や網走湖、能取岬などがある網走、またサロマ湖や知床半島北側などが含まれアザラシが濃そうな地域。漁業被害額も大きいのでは、と思ったですが、海獣被害額は全道最低で、アザラシの8万4千円のみ。オホーツク地域の漁業は海獣とバッティングするような漁業形態ではないのか、海獣たちが食べる量など気にならないほど漁業資源が豊富なのか、、、。また流氷が押し寄せている間は漁には出られないのもこの地域の特性かもしれません。
3枚目の表はこちら。振興局別アザラシによる漁業被害状況の推移。
アザラシの漁業被害額の全体額が昨年に比べ半減しているので、どの地域も軒並み被害額は減少しています。
中でも留萌・日高地域は前年比70%以上減の被害額なので「なにがあったの?」と気になるくらいの減少率。後志は前年比では横ばいですが、ピークの2016年に比べれば約9割減になっているので大したものです。宗谷も近年増加傾向だったのが急に半減以下になっていますからね。比較的高い数字が維持されたのは根室地域。オホーツク地域は昔からほとんど被害がないという地域です。
以上のように、全体的に見て”海獣による漁業被害額が半減”という事実も、各地域ごとで被害状況がいかように推移しているのかを見ても非常に興味深いものでした。この被害の減少傾向が今後も継続するのか、そもそもアザラシをはじめとする海獣類の個体群動態はどのような推移をたどっていくのか、しばらく目が離せません。
北海道ではアザラシをはじめとする海獣類が漁業被害を出しているという事実は、肯定的な感情でアザラシや海獣類を追いかける人も知っておくべきことだと私は思います。
※私は人間とアザラシ・海獣類の共存を第一義的に願うものですし、また科学的根拠に基づいた海獣類の個体数管理や持続的な利用も支持します。よって、殺傷や毛皮や肉の利用を認めない原理的な保護論者ではありません。
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