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北海道の海獣(アザラシ・トド・キタオットセイ)による漁業被害データ2024年度版

北海道庁水産林務部水産局水産振興課のウェブサイト2024年度(令和6年度)の海獣類(アザラシ・トド・キタオットセイ)による漁業被害状況のデータが公開されました。

夏の終わりの頃に北海道における前年度の海獣による漁業被害データが公開されるのが恒例です。今年の公開日は2025年8月28日でした。この海獣の漁業被害データは、毎年北海道庁のウェブサイト上にひっそりと更新されます。なので、この季節になると毎年「そろそろ更新されたかな?」と道庁のサイトを覗くようにしています。

水族館、動物園の飼育されている海獣や野生の海獣の姿を見て楽しんで終わり、、、ではなく、現実として起こっている海獣類と人間活動との軋轢にも目を向け、その先の海獣類と人間の共存のためには何をすればよいのか考えつつ、なるべく具体の行動につなげていきたいと思います。

宗谷地方の漁港のブロックに上陸する野生のゴマフアザラシ

さて、2025年8月に公表されたデータは、2024年度(2024年4月から2025年3月)までのデータ。単年ごとに被害状況の多寡で一喜一憂するよりは、何年か継続的に見て長期的に考えなければと思いますが、いろいろ興味深いものがあります。2024年度の漁業被害データを引用しながら、気になった点、注目したい点を紹介しようと思います。

(これまでの漁業被害状況を紹介している各年のリンクは、このコーナーの下の方にあります)

①海獣類(トド、オットセイ、アザラシ)による漁業被害状況(2024年までの年度ごとの推移データ)

最初は海獣類全体の総論的なデータ。

北海道オープンデータ CC-BY4.0(https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja

2020年まで海獣類による漁業被害額は漸減していたのですが、2020年を底に2021年は再び被害額が増加に転じ、2022年もその傾向でした。2023年は微減したものの、2024年は被害額は再度上昇傾向となりました。

被害額の総額は合計11億8942万円で2019年並みとなりました。被害集計対象のトド、オットセイ、アザラシのうち、トドの被害額がとても増加しております。オットセイの被害額はとても減っており、アザラシはだいたい横ばいです。

2024年度被害額の約9割をトドが占めて、10億円ほど。オットセイが0.5億円、アザラシが1.1億円です。

②2024年の北海道の各地方(振興局)別に漁業被害情報をまとめたデータ

次いで北海道の地方(振興局別)に整理してあるデータの紹介です。

北海道内各振興局の位置関係はこんな感じ。内陸の上川・空知は海獣の漁業被害データはありません。
北海道オープンデータ CC-BY4.0(https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja

昨年のデータとも比較しながら見ていきましょう。

②-1:トドは日本海側の宗谷、留萌、石狩、後志が被害のほとんどを占めるのは2023年度と同様傾向。残りは太平洋側の根室管内で、ここの被害額は増えていますね。あと全体に占める割合はまだ低いのですが、檜山・渡島で被害が出ているのが気になります。昨年度はこの2地域では被害はほぼゼロでした。トドが日本海側で南下している?南太平洋岸とオホーツク海側はトドの被害ゼロでこれは昨年度と同傾向。

②-2:オットセイは被害総額の多くを後志管内、それも間接被害が占めるのも例年と変わらぬ傾向。後志地方に隣接する石狩管内は被害ゼロで、檜山管内も被害額はそれほどではないのも相変わらずで、後志管内が狙い撃ちされている傾向。また直接被害では釧路管内に集中していて、これも隣接する十勝管内で被害ゼロ、根室管内で被害が少ない(直接被害はゼロ)という傾向も相変わらず、なのですが、隣接している行政界でこんなにきれいに傾向が分かれるのは若干不思議ではあります。(同基準で集計されているのだろうか。。。)

②-3:アザラシは宗谷・留萌の日本海北部の2地域と根室の被害額が大きい。主に前者はゴマフアザラシ、後者はゼニガタアザラシの分布とも合致していてイメージ通りです。被害額は留萌、根室、宗谷管内という順です。宗谷の漁業被害額が減って、根室の漁業被害額が上がっているのですが、ついに宗谷が根室に抜かれる時が来るとは。。。

③海獣の種類別・地方(振興局)別にまとめた漁業被害状況

続いては獣種と地方(振興局)ごとに分けたデータを詳しく見てみましょう。

③-1 アザラシによる2024年の漁業被害状況

まずはアザラシから。

北海道オープンデータ CC-BY4.0(https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja

アザラシによる漁業被害の総額は1億743万円で、2023年度から7741万円ほど減少しました。なお2023年までは檜山・渡島・胆振のデータ掲載欄自体が無かったのですが、本年度からこれらの地方の欄が設けられ、「0」と記載されてます。

2023年のデータで特に気になったのは以下の点です。

①宗谷地方はゴマフアザラシが多く生息する地域で、アザラシ漁業被害が激しい地域のイメージでしたが、2023年度の3500万円から約半減近いの1998万円になり、ついに2000万円を切りました!2014年以来の低水準です。被害額は減るに超したことはないのですが、とはいえ被害額が減った理由も気になります。単純にアザラシが減ったのか、アザラシに食われる魚や被害を受ける漁具が少なくなったのか、漁業者が減ったのか、、、。このデータだけではわかりません。

留萌地方の被害額は4081万円で、道内で最もアザラシによる被害額が多い地方ですが、被害額そのものは400万円ほど微減。2015年前後よりは減っているとはいえ、2022年以来、高水準が続いているようです。

③後志の被害額は2023年は前年比では激増していましたが、再び落ち着く傾向へ。

ゼニガタアザラシが定住する襟裳岬がある日高地方は、昨年の52万円から980万へ増額。ゼニガタアザラシの定住している地域ですし、これまでの水準からいって昨年の52万円という数字が意外だったので、ある程度は被害が出ている地域なのでしょうね。

十勝のアザラシによる漁業被害はゼロに。これまでそれなりに被害があった地域ですし、ゼニガタアザラシの生息している地域なので「ゼロ」って本当か?とは思いますし、この数字が続くかどうか・・・。

釧路の被害額は大幅に減少。長期的に見てもかなり被害額が減っている傾向にあり、被害額が大分低い地域になってきました。

根室地方は大幅に被害額が増え、2023年比1.5倍の3300万円になり、上述したとおり漁業被害が多かった宗谷を抜いて、留萌に次ぐ漁業被害が多い地域に。根室地域は安定して被害額があります。ゼニガタアザラシもゴマフアザラシも見られる地域であり、北方領土側からアザラシも泳いで来ているかもしれませんね。

オホーツクはアザラシによる漁業被害額は少ない地域でした。アザラシが比較的多くやってくる流氷期はあまり漁漁はされないので、被害額が少ないのか?ここ数年は少し漁業被害が出て微増傾向だったのですが、2023年は再度ゼロ!、、、と、なってからの2024年は再び100万円越えの180万円に。状況変化が目まぐるしいです。

③-2 トドによる2024年の漁業被害状況

続いてトドの漁業被害です。トドの漁業被害額の表は、これまで十勝の欄がなかったのですが、2024年は十勝を含めて海に面しているが振興局はすべて掲載されている表になりました。

北海道オープンデータ CC-BY4.0(https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja

トドの被害額は2018年以来6年ぶりに10億越え!前年比で3億円ほど被害額が増えておりますし、トドは海獣の漁業被害の中で最も深刻です。

日本海側北部~中部の宗谷、留萌、石狩、後志で被害額が増加しています。被害が少なかった檜山、渡島でも被害が出てきており、被害地域が日本海側の南の方まで広がりつつあることが見てとれます。2023年は日本海側中部の石狩で被害が減っていたのでトドは北上傾向にあるのかと思ったのですが、2024年のデータからはむしろ南下している、、、のか?

②2023年時は、根室管内は被害額が約半減と騒いだのですが、2024年はリバウンドして9億円近くにに戻ってしまいました。しかし被害額が88,888千円という末広がりなおめでたい数字というのも微妙だな。。。

オホーツク海側や根室を除く太平洋側沿岸で被害がないというのも相変わらずで、これは明確に分布地域が別れていそうです。

③-3 オットセイによる2023年の漁業被害状況

続いてオットセイ。

北海道オープンデータ CC-BY4.0(https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja

この数年はオットセイの漁業被害額は減少傾向にありましたが、その傾向は続いています。昨年から被害額は3~4割ほど減っています。後志管内が被害額の8割を占めているのはかわらないのですが、全体的な被害額の減少傾向は継続しているようです。

まとめ・漁業被害額の大小よりも増減の理由が気になる

2024年度の海獣による北海道の漁業被害額のデータを掲載してきました。この漁業被害データを紹介するのも毎年の恒例行事になりつつあるのですが、そろそろ被害額の数字の大小より、なぜこのような数字であり、増減傾向を示しているのか、が気になってきています。

海獣による漁業被害額というのは、単純に海獣類の分布の傾向、その餌でありまた漁業の対象である魚類の分布の傾向という自然要因の他、漁業の売り上げや漁業従事者数(高齢化して廃業する人が多い、漁業の規模や質が変わる)などの社会要因というか人間側の要因が複雑に絡み合って、この「漁業被害」というものになっていると思われます。極端なことを言えば、海獣が魚を食べまくってもm競合する漁業者がいなければ漁業被害額はゼロになるわけです。

なので海獣による漁業被害額だけではなくて、その地域の漁業者数や出荷する魚種の変化や売上高の推移などのデータも見たいと思ってきました。また境界が隣接する振興局で振興局堺で被害が明確に分けられるのも若干不思議で、集計方法なども見てみたいなと思いました。

また来年度どんな数字になるのか楽しみでもあります。

最後に生息地から離れて暮らしている海獣好きな人たちが、海獣の共存のためにできることについてまとめたコーナーも紹介しておきます。

以下は過去の北海道における海獣漁業被害データに関連するコーナーです。過去の様子が気になる場合、ご参照ください。

管理人
管理人

北海道ではアザラシをはじめとする海獣類が漁業被害を出しているという事実は、肯定的な感情でアザラシや海獣類を追いかける人も知っておくべきことだと私は思います。

※私は人間とアザラシ・海獣類の共存を第一義的に願うものですし、また科学的根拠に基づいた海獣類の個体数管理や持続的な利用も支持します。よって、殺傷を伴う捕獲による個体数調整や毛皮・肉の利用を認めない原理的な保護論者ではありません。

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