ここ4回のエントリーにわたり、佐渡の自然に放鳥されたトキを見に行った記録を掲載しました。
佐渡に行く前は、私も「まぁ遠めでも一羽くらいチラッと見ることができればいいかなぁ、見られなくてもしょうがないかな」くらいに思ってましたし、さきほど同行した妻に「佐渡に行く前にトキは見られると思っていた?」と聞いてみたところ、「絶対に見られないと思ってた。(私が)前夜から大騒ぎでいろいろな物資を準備して、夜通しで横浜から新潟まで運転しているのを見て『何張りきってんだ、見られるわけ無いだろ、バーカ』と思ってた。」とのことでした。
結果として、これまで紹介したとおり、朝に佐渡に渡って夕方に発つまでに島内にいる約90羽のうち、10羽くらいは見てきたのですから、それなりに運が良く成果を上げることができたと思います。
佐渡に旅行に行く時に「トキを見たい」という方が検索をしてこのブログにたどり着くこともあると思いますので、トキ捜索の感想やちょっとしたコツを書いておきたいと思います。
まずトキを見つける話の前に、トキの観察ルールがあるので紹介しておきます。佐渡観光協会のサイトにトキの観察ルールが掲載されております。熟読し厳守されてください。
簡単に言えば①トキに近づかない②車内から観察する③大きな音や光を出さない、が三原則のようです。
さて野生動物と遭遇するには、相手はある程度行動がパターン化されている(「寝る」と「食う」のサイクルはそうそう毎日変わるものでは無い)ので、相応の準備をすれば、ある程度は遭遇確率を上げることが出来るのではないかと思います。
この辺の感覚は本業の野生のアザラシを追っかける嗅覚と一緒です。むしろトキは情報が多いのでアザラシを探すのに比べても、それほど難しくはなかったです。生き物を探す嗅覚は対象動物が違っても役立つな、と思いましたが。
「トキと会えたのは嗅覚の訓練の賜物です」と書いてしまうと元も子もないですので、明文化が可能なトキと会えた「勝因」を書いておきます。
・情報収集をがんばろう。
当然ながら佐渡のどこにでもトキがいるわけでは無いので佐渡に行く前にトキの情報を集めます。どういうところにいるのか、何を食べるのか、どの辺で目撃されているのか、行動時間はどんな具合か等々。野生動物の情報収集をしないで見に行くのは地図を持たずに知らない街にいくようなもんです。行き当たりばったりで見知らぬ街の美味しい店に入る確率は下調べした場合に比べればはるかに下がることは自明です。
情報収集はどんな野生動物を見に行く際にも共通な準備だと思いますが、トキはこの情報収集は非常に楽にできる対象動物です。なぜならトキは人間の手によって野生復帰事業がなされているという手前、生息情報がかなりの精度で把握され、ある程度公開されていますし、さらにマスコミの注目度が高くさまざまな報道発表がなされており情報がそろっていますから。
具体的に言ってしまえば、行政機関系の以下のサイトによってどの辺にトキがいるか大雑把に示してくれているのです!野生アザラシに比べてもなんとも親切なものです(^^)
・放鳥トキ情報:大雑把ですが放鳥トキの分布情報やどの辺でよく見かけられるかを示した図面がある。時の個体識別情報なんかもあるのでプリントアウトして持っていくと楽しいかもしれません。
・トキのたより:ここも大雑把ですが最近トキがどこで見られ何をしていたかが掲載されている。
なお、佐渡のトキの保護関係の施設で働かれている方や観光関係の方にトキがどこにいるか聞いても、ピンポイントに「あそこに行けば見られるよ」というような答えはおそらく出てこないと思います。
これは意地悪や嫌がらせでもなんでもなく、トキは野生復帰を目指している半ばの事業であり、デリケートな面を含んでいるということと、また相手はコントロールが出来ない動物でどこにいるかという保証がまるで無いということからであり、至極当然の対応です。
上記のようなサイトの空間スケールレベルの情報でも出しすぎなんじゃないかなという気がしないでもないですが、いろいろな専門家や機関が検討してこの程度なら出しても問題ないということなのでしょう。上記サイトは粗いスケール情報ですが東京23区の1.5倍の広さを持つ佐渡島をトキを求めて回る事に比べれば、このくらいの情報でも相当トキに近づいています。
(なお「どこでトキを見たか教えて欲しい」というようなお問い合わせは、トキ保全を担当する機関からのお問い合わせ以外は、回答はお断りいたします。
私が見たのは上記サイトの分布情報のうちトキがいる可能性が高いエリアの範囲内で、かつ何羽か異なる個体を見たので、偶然トキがよく利用する場所に行きついたのではないかと自分では思っております。)
その他、トキに関する報道情報や新聞情報なども出来るだけ集めておきます。私の訪問でも「ハクチョウとトキが一緒にいるのが目撃されている」という直前の報道情報が役立ちました。
・季節を考えよう
トキは自然の中で暮らしているので、当然四季の影響を受けます。トキ自身も季節によって姿を変えます。トキ保護センターのサイトによると1~8月はトキは繁殖期で上半身は灰黒色。8~1月はほぼ白色。(このブログに掲載してあるトキ写真は11月に撮影ですから白いわけです)また春~初夏は営巣期と子育ての時期。
これを踏まえてトキを見慣れていない人が佐渡に行くのはワンチャンスしかないとして、トキを見つけることが出来る可能性が高いのはいつなのか、考えてみましょう
まず冬ですが、佐渡は日本海側の新潟県。当然雪が降ります。地面が真っ白になっちゃったら白いトキは見つけにくいだろうな、と単純に思えます。もう少し考えると、さらに雪が降ったら雪道の運転は大変だろうな、と思うでしょうし、雪国の方はトキがいるような田んぼや森の近くの道は除雪されないだろうな、と思うかもしれません。さらに日本海側の新潟の冬の海は大荒れで佐渡汽船が運休になることもあるんじゃ無いだろうか。。。といろいろ想像が膨らみます。どうも冬は厳しそうです。
冬の佐渡には実際に行ったことがないので↑の想像のすべてが正しいかどうか分かりませんが、可能性はなるべく考慮しましょう。正解じゃなくてもいいのです。とにかくトキを見つけにくい要因と見つけやすい要因を考えて、マイナスが少なく観察しやすいのはいつなのかというのを考えればいいのです。
では春はどうでしょうか。春~初夏はトキの営巣~産卵・出産の季節。この頃のトキは非常に神経質になっているので、なるべく近づくのは遠慮したほうが良さそうです。色も白から灰色っぽい色になっていると思いますし、案外目立たないかもしれません。
繁殖期が終わる夏頃は?夏はトキ本体からではない難しさがありそうです。トキがいるのは森や田んぼの周り。夏は田んぼの稲や草の生育も旺盛で丈の高い草が生い茂ります。森も緑が濃い季節。トキの背の高さくらいは覆いかぶさってしまうかもしれません。そんな事情で、慣れていない人がトキを見つけるのは難易度が高そうです。
稲刈りが終わる秋はいかがでしょうか。稲も刈り払われ田んぼの植えは相当見通しが利く状態になります。田んぼは稲刈りが終わり土や刈れた稲の茶色と少し出た雑草の薄い緑色が中心ですが、トキは真っ白になっている季節で目立ちます。気候も比較的安定しており、台風でも来ない限り、佐渡汽船の欠航はまず無いでしょう。
私はこの稲刈りが終わった頃~雪が降る冬前を狙って佐渡に上陸。実際、トキを見つけましたが、これが他の季節だったら見つけられたかな、、、と思います。
あとトキを見つけるに必携といってもよい物が双眼鏡です。
ご飯は1日くらい食わなくても死にませんし、服も一日くらいは着ていなくても風邪や肺炎になるくらいで病院にいけば何とかなるかもしれませんが、双眼鏡が無いことにはトキを見つけることは出来ないといってもいいくらいの重要な道具です。双眼鏡は、あらゆる野生動物を見に行くときは必携の道具と言ってもいい物です。
とはいえ特別な双眼鏡は必要ありませんし、いきなり何万円をするような高い双眼鏡を買う必要も全くありません。
”極普通の”10倍以下(8倍が推奨)のズーム機能が無い双眼鏡がおすすめですが、くれぐれも怪しいメーカーの激安980円双眼鏡とか怪しい通販の「10-50倍」とか「20-100倍」とかの高率ズームを謳う双眼鏡などゴミカス双眼鏡は買わないでください。まっとうな双眼鏡が5000円程度から手に入るのに較べればボッタクリもいいところです。
じゃ、何を買えばいいんだよ、という話ですが、簡単に言っちゃえば、国産の光学メーカーで皆さんが聞いたことがあるような有名メーカーの双眼鏡を買えばOKです。もちろん各社、見え方や操作性に傾向がありますが、真っ当な双眼鏡の機能はちゃんと持っています。
具体的には「ニコン」「ペンタックス」「ビクセン」「オリンパス」「キヤノン」あたりの製品です。出来れば実際に手にとって覗き込んで、気に入ったものを買っていただければ良いのですが、なかなか双眼鏡を並べて比較するのも大変な方もいらっしゃると思いますので、参考まで独断の10000円以下で手に入るおすすめの双眼鏡を以下に書いておきます。
・PENTAX 双眼鏡 タンクローR
一番最初に掲載するのは一番おすすめの双眼鏡でタンクローはPENTAXが作る入門双眼鏡の定番中の定番の機種。8倍のモデルと10倍のモデルがありますが、おすすめは8倍のほう。倍率は高いほうがなんとなくよさげに感じるかもですが、鳥や動物を見るのは8倍くらいがもっとも使いやすい。2013年11月現在、amazonでは4000円台の値段で売られていますが、値段に比べてその性能は非常に高い。amazonの双眼鏡カテゴリの人気No,1ですし、口コミの評価の高さからも優秀さが伝わるのではないでしょうか。安心してご購入ください。
双眼鏡なんか今後使うかなぁ、、と思っている人にこそ一度使って欲しい物です。鳥を見なくても例えばコンサートにも使えますし、星を見るのも楽しい。私もお金が無い大学時代にタンクローを買って、長年このタンクローを使っていたのですが(このリンク先の商品の一個前のモデルでした)、礼文島の海岸で紛失してしまい、泣く泣く手放した苦い記憶があります。アザラシサイトのほうの野生アザラシのほとんどのコーナーにはタンクローを持っていっていました。そんな思い入れがあるので、今は違う双眼鏡を使っていますが今でもタンクローが時々欲しくなるものです。
・PENTAX 双眼鏡 タンクローWP
上記タンクローシリーズの完全防水タイプ。1m防水で、丸洗い可能。見え味も文句無いですが、上記タンクローの約2倍の価格。悩ましいですが、防水が必須じゃないなら私は安いタンクローRを買うかな・・・。タンクローRに較べると若干重いし。本機も悪くないのですがタンクローRが値段・性能が優秀すぎるのです。しかしフィールドで水で濡れてもいいというのは精神的には非常に具合がいい。ここまで来ると購入される方の意思次第で、性能的にこちらを購入して後悔する商品では無いでしょう。
それじゃお前自身はどんな双眼鏡を使っているんだよ、という話ですが、私が現在使っているのも特に高い双眼鏡ではなく入門機クラスで、↓です。
・PENTAX 双眼鏡 Papilio
タンクローと同じPENTAXのPapilio。倍率は入門的な双眼鏡の倍率は一般的には8倍のものが多いですが、それより低く6.5倍の双眼鏡。
この双眼鏡は至近距離(50cm!)のものにもピントが合うという面白い特徴を持っています。
明るいですし見やすいことは見やすいのですが、タンクローRより若干大きいのと倍率が6.5倍と変わった倍率なのと値段もタンクローの2倍はするということで、初めて双眼鏡を買ってトキやアザラシを探そうという目的なら前述のタンクローRのほうがおすすめです。個人的には双眼鏡の性能には何の文句も無い商品ですので、おすすめできます。
・Nikon 双眼鏡 スポーツスター
非常に小型ながら、視野が広くて明るいというのが特徴で、ニコンが作っている双眼鏡。小型で軽いので女性向け。ちなみに私の妻の双眼鏡はこれです。私も借りますが申し分ない性能でよく見えます。
私自身は本機のようなシュッとしたダハ型より、タンクローRやPapilioのようなのようなずんぐりむっくりしたポロ型の双眼鏡が好きですが、ここまで来ると好みの問題かな。
双眼鏡の世界はお金を出せば出すほど性能が比例して、快適さ、視界のきれいさが上がる世界なのですが(たまにそうでも無いやつもありますが)、使い倒せる価格帯の入門機のほうが気軽という面もあります。お金持ちの方はこういうのに行っちゃってください。私は試し覗きしかしたことが無いですが、その試し覗きでも入門機と違うことが分かるくらい性能はずば抜けています。。。
あと、自分の目で見るだけではなく写真に残そうという方。トキの写真撮影をするならそれなりに望遠が可能なレンズや機種を選ぶ必要があるかと。トキはなかなか自分から人間に近寄ってきません。250mm以上の撮影器材は必須じゃないかと思います。携帯電話やスマートホンではまず写らない(写っても白いゴマのような点程度にしかならない)と思います。
佐渡での幸運と健闘をお祈ります!
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