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水族館や動物園でアザラシを飼育する意義の考察。その飼育に大義はあるのか?

日本でも多くの水族館や動物園で飼育されているアザラシたち。

今回は動物園や水族園でアザラシを飼育する大義とは何ぞや、、という結構重たくて根本的なテーマについて書こうと思います。このテーマはアザラシ道を歩む者なら避けて通ることが出来ないテーマ。

私も自分なりに考えを消化してきているのですが、あまり明文化してきませんでした。今回書くのは「私はこう考えますよー」というもので、一つの解があるテーマではないと思います。

そもそも、なぜそんなクソ真面目なことを書くことにしたのか?

なぜそんなクソ真面目な話をいまさら書こうと思ったか、きっかけはYouTubeに私がアップしている動画に最近寄せられたコメントです。

おそらく外国の方のコメントで「so sad thet aren’t free in the wild」、日本語に訳すと「アザラシたちが自然の中で自由ではなくてとっても悲しい」といったところでしょうか。アザラシの飼育に対して、どちらかというとネガティブ気味なメッセージとも受け取れます。

私自身、もともとは動物園や水族館に苦手意識をもっていた

このコメントに対し、私は完全に同意するものではないのですが、このように考えられる背景を理解しますで。私自身、幼い頃は動物園や水族館が苦手な子どもでした。

「なんで外国で産まれた動物をわざわざ遠い日本に連れてくるの?自分が産まれたところから遠く離れた狭い場所に強制移住させられて、見世物にされたらいやでしょ?」と思うようなクソガキで、学校の行事で近くの水族館に行った記憶はあるものの、飼育動物を見た記憶は一切なく、水族館周辺の広場にある遊具で遊んだ記憶しか残っておりません。子供の頃に両親に動物園や水族館に連れて行ってほしいとせがんだこともないはず。今でも飼育環境が微妙だったり、動物を見世物的に扱っている飼育施設を見ると、いやーな気分になりますし。

目指すべきは生態系の保全・種の存続であり、そのために必要なものは?

そのように動物園や水族館に苦手意識を持っていたのですが、大学くらいから自然環境や野生生物の保全について、真面目にかつ現実的なアプローチを考えるようになり、またアザラシを中心として種々の水族館や動物園などを回るようになって、水族館や動物園に対する考えも変わってきました。

自然環境や野生生物を保全しよう思っても、一個人の力ではほぼ何もできません。どんなにすごいアザラシマニアでも研究者でも…。アザラシが参政権・投票権を持っていたり、超絶な大金を持っていたら、政治家もアザラシ優遇施策を打つと思いますが、現在アザラシにそのような権利も資金も付与する動きはないです。

つまりカネにも票にもならないのがアザラシを含む野生動物の保全というものです!身も蓋もない話ではありますが。

なので、野生動物の保全を進めようとしたら、現実的には民意というか世論というか、多くの人間の意識がそっちに向いて、後押しを得ることがとーっても重要になります

このサイトを運営している動機の一つにも、少しでもアザラシや海獣で楽しいものと思ったり、ほほーっと思ったりして頂き、アザラシや海獣に興味を持ち、それを保全しようと思う方が増えていってほしい、という願いがあります。

一方で、「自然環境や野生動物の保全が重要。みんなで守ろう!」と言葉だけ書いても、虚しさもひとしお。見たことがないモノに興味を持とう、それを守ろう、大切にしよう、と言われてもしらけるのもまた事実だと思います。

本物の野生動物を見に行こう!と思っても彼らの生息地で暮らす姿を見るのも、なかなか大変です。野生のアザラシの場合は国内の北海道でも見られますが、それでも多少の予算と時間と運が必要で、多くの日本人が気軽に見に行けるモノでもありません。

アザラシの飼育が種の存続・生態系の保全を後押しするのが理想

身近な動物園や水族館で実物のアザラシを見ることはできます。そして多くの人がアザラシやアザラシを取りまく様々な問題に興味を持って、次の行動につながるならば、結果としてはアザラシの種の存続、アザラシが暮らす生態系の保全につながっていきます。

飼育下で産まれたゴマフアザラシの幼獣。(おたる水族館) 野生の白い毛に覆われたゴマフアザラシの幼獣を見ることはとても大変ですが、飼育下では比較的手軽に見ることができます。幼獣には、、、彼らを見た人間の多くを虜にし、アザラシを守りたいと思わせるほどの強力な破壊力が宿っているはず(笑)

実際、アザラシを飼育している水族館や動物園を訪ねてみると、まずは飼育個体に関心を持ってもらおうとしつつも、野生個体の生息地やさらには生態系保全に関心をつなげていこうと意識されている施設もたくさんあります。

私は水族館や動物園といったアザラシ飼育施設はアザラシの種全体や生態系全体の保全に社会の意識を向けていくための重要なツールの一つとして捉えております。

おそらく時代も変わってきたのでしょう。日本においては、幼い私が苦手意識を持った昭和~バブルの頃の遊興的な興行としての役割は行き詰まり、環境問題や動物福祉といった観点への関心の高まり、動物園・水族館のあり方や求められる社会的な役割も変化してきて、そして施設設備(人員含む)や飼育技術自体も時代とともに進化してきたのだと思います。2000年代初頭の旭山動物園が成功するという具体事例があったインパクトもあったはず。

飼育下のゴマフアザラシたち(オホーツクとっかりセンター)

私自身のアザラシやら海獣へのアプローチは、野生モノが主となり、個別の個体というよりは、アザラシを含む生態系・環境そのものの保全に興味の軸が移ってきました。

今回エントリーで動物園飼育の意義を取り上げるきっかけとなったyoutube動画コメントの「野生動物は飼育下ではなく野生にいるべき。。」と考えは、小さい頃の自分もそう考えるだろうなと思うし、わからんでもないのですが、何のために飼育がなされているのか、その飼育が大きな目標、大義を達成することに寄与できるか、といった視点で考える必要があると思います。

また、この動画に写っているゴマフアザラシは、現在の日本の水族館動物園で最も多く飼育されているアザラシの種になりますが、ゴマフアザラシで飼育されている個体は、漁網に入ったり衰弱したりで保護された個体や飼育下で繁殖した個体が中心であり、野生下で暮らす元気なゴマフアザラシを水族館や動物園に連れてくるために積極的に捕獲する、というのは、ほぼないと思います。(あくまで推測ですが…、ゴマフアザラシは保護個体・繁殖個体が多い上に、比較的長命な種ですし…。)
つまり本来は野生下では死ぬ寸前だった個体や産まれた時から人間の飼育下に置かれている個体が多く、野生下の個体群の存続には影響を与えないもの。また個体レベルでは外海で一度も生きた魚を取ったことがない個体もいるはずで、そのような個体を海に放つのが、その個体にとって幸せかはこれまた大きなテーマでしょう。飼育下に長くいる個体が外海で餌の魚を取るだけではなく、さらに相手を見つけて繁殖、メスの場合は育児までできるのか、まで考えると大変なことになりそうです。

一方で、動物園・水族館を冷静な目で”監視”し続けることも重要

ただ動物園、水族館などの飼育を手放しに全肯定するわけでもありません。どのような種であれ、仮に野生の個体を捕獲して飼育するような場合には、種の存続に影響が与えない規模というのは大前提ですし、劣悪な飼育環境しか用意できない施設や見世物的な扱いをするようなろくでもない施設があるならば、そのような施設は「so sad thet arent free in the wild」がむしろ正しいと思いますし、駆逐・淘汰されていってほしいと思います。(ゴマフアザラシは北海道では駆除されるほど多くの個体がいる種なので、個人的には人間がこの種や個体を利用することには賛成なのですが、飼育して生体の展示を行うなら守るべきラインはあるよね?と。)

日本の動物園・水族館の元締的存在である日本動物園水族館協会(JAZA)のサイトに同協会の4つの役割として、「種の保存」「教育」「調査・研究」「レクリエーション」が掲げられています。

4つの活動 | 動物園と水族館

これ自体は素晴らしい概念で反対するものではないです。が、これが”錦の御旗”になって、すべての動物園や水族館が野生動物を飼育することを盲目的に肯定してはなりません。

例えば「種の保存」に関して言えば、動物園で飼育されている種の中にも、野生下で十分個体がいて、種の存続のために飼育下で繁殖させる必要が無い種(例えばゴマフアザラシやワモンアザラシ)だったり、海外で生息していて、かつ個体数もそれなりに多い種でわざわざ日本で飼育・繁殖する必要性が低い種(ライオンとかシマウマとかコアラとか)がおります。

ある意味極論ですがですが、自然下で駆除されているゴマフアザラシを種の保存の目的のために飼育する必要はありませんし、ライオンも日本国内で増えすぎて行先に困っている事態もあるようで、また繁殖させても本来の生息地に放つわけでもないです。このような種を日本の動物園水族館で飼い続けて繁殖させる意味は考えなければなりません?ということです。

一方で、日本国内では自然下で絶滅が危惧されている種(例えばアベサンショウウオ、イタセンパラ、アユモドキなどなど)がたくさんいるわけで、本来ならアザラシとかライオンではなくこういった種の飼育下繁殖、野生復帰に動物園・水族館の資金・人的リソースを割くべきと思います。

ただ日本の固有種は本当に貴重だとは思うのですが地味めな生き物が多く、ぶっちゃけ客は呼べません!(客寄せパンダにならない。多くの人間がアベサンショウウオを見るために水族館に行くはずがない!!)

動物園といっても私営施設もあるし、公営でもお客が入らなければお取りつぶしの危機になります。なので、客寄せパンダ的な目玉の用意やインスタ映えをする見せ方を工夫したりなども必要でしょう。そのような興行的な側面として動物を利用するのを否定するものではありません。(もちろん動物福祉や倫理規定などに配慮するのは大前提ですが)

アザラシの繁殖、その白い赤子の姿にはそのような客寄せパンダ役という重要な役割も。

動物を見世物的、客寄せパンダ的に使うこと(≒レクリエーション目的というのかも)は認めた上で、さらにその先にその種の飼育の大義があるか、ということが重要なはず。

亜寒帯のロシア・バイカル湖で暮らすバイカルアザラシを、灼熱化しつつある日本で、アホのように冷房用に電力を使って飼育するならば、興行目的以上のその排出したCO2以上の何らかの公益的な利益もたらしているかという観点のチェックが必要です。そうでもなければ日本でバイカルアザラシを飼育する意味は無い、はず。
(バイカルアザラシは、国同士の友好の印としてその国の動物を贈るという、動物観点からはどうかと思う国際慣習でやってきたと思われ、現在バイカルアザラシを飼育している園館はその引き受け手になり、その中で精いっぱい頑張られているという側面も忘れてはいけません。)

動物園や水族館が単に見世物的展示、見栄えだけの展示に終始していないか、ということは意識してチェックしていかねばならないことだと思います。

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