２月に入り北海道のオホーツク海側は本格的な流氷観光シーズンを迎えております。
「アザラシといえば氷の上→それならば流氷の海は野生のアザラシの観察に最適！→野生のアザラシの観察をするなら２月～３月の北海道のオホーツク海にいってみよう！」とイメージされる方は案外多いのではないでしょうか。
↑こんな写真を見ると流氷の海に行けばアザラシがうじゃうじゃいて簡単に見られるようなイメージを持つかもしれません。この写真は確かに私自身が北海道で流氷の上にいるゴマフアザラシを撮影した写真ですが、とはいえ最近は北海道の海の環境の移り変わりが激しい。この写真と同じような感じで、北海道で流氷上のアザラシを撮影するのは相当難しくなっていると考えています。
今回は「野生のアザラシを流氷の上で観察！」というイメージの実際のところや流氷観光船乗船時の野生アザラシ都の遭遇の相場感、「ぶっちゃけ日本の流氷上のアザラシを一般人が見ることができるのか」の相場感について、私の経験や勘を踏まえ、個人的な考えを紹介したいと思います。
網走と紋別の二大流氷観光船から流氷上に転がるアザラシを見られる可能性について
北海道の流氷原にいるアザラシを見に行こうと思ったら、真っ先に思い付くのが流氷観光船の利用です。流氷は沿岸に押し寄せますが、流氷原の上を歩いてアザラシを探すわけにはいきません。流氷の上を徒歩で歩くのは超絶危険ですのでやめましょう。なので、流氷の中に突っ込んでいくなら、観光船利用がセオリーとなります。
流氷観光船は、流氷が押し寄せるオホーツク海側の中心都市である網走市と紋別市の観光船が二大勢力です。網走は「網走流氷観光砕氷船 おーろら」が、紋別は「ガリンコ号」が出港しています。
「網走流氷観光砕氷船 おーろら」の紹介・野生アザラシの観察はできるのか？
網走と紋別にある２つの流氷観光船のうち、まずは網走の網走流氷観光砕氷船 おーろらから紹介します。
おーろらの船はこんな具合。なかなか大きな船です。今は一回り小型の「おーろら３」も就航しているようです。
さて、おーろらの航海中に流氷原のアザラシを見られるか、、、ですが、私は「おーろら」の流氷航海に2回乗船したことがありますが、残念ながら2回ともアザラシを観察することはできませんでした。そして船が大型なだけに、仮に流氷上にアザラシがいたとしても接近は難しく、双眼鏡で遠くにいるのが確認できるパターンと思いました。なので、アザラシ観察目的では今後乗ることは無さそう、、ということで、乗船経験数も２回で止まってしまっております。
ただ流氷をかき分けダイナミックに海を進むおーろら号の航海は通常の船の航海とは異なる感触で面白かったです。流氷の海を航海するという体験はなかなかできないので、是非体験していただきたいですし、体験する価値は十分にあると思います。
アザラシに血眼にならずアザラシが生息している流氷原を味わってみよう、、くらいの感覚で、流氷の海を体験するのがおすすめです。
紋別の流氷砕氷船「ガリンコ号」の紹介・野生のアザラシ観察はできるのか？
次は紋別のガリンコ号の紹介です。船はこんな具合。名前の通り流氷をガリガリするスクリューが付いている変わった船です。
↑船の写真は2代目の「ガリンコ号Ⅱ」ですが、この船は2025年シーズンで引退が決まっており、新型の「ガリンコ号Ⅲ」が2021年から投入されています。Ⅲ型はⅡ型に比べ大型化し、速度などもアップしており、より遠くの流氷帯まで突っ込んでいけるようになります。一方で船が大型化は、野生動物への接近の容易さとは反比例して困難になると思われます。まぁガリンコ号Ⅱでも十分大きい船なので、そこまで差が出るものでもないのかもしれませんが…。
さて、ガリンコ号に搭乗した際の私の野生アザラシ遭遇経験ですが、私はガリンコ号Ⅱで流氷原の航海を3回経験しており、アザラシ遭遇は0回です。これは流氷原を航海した時の数字で、荒天で船が出なかったり、流氷原まで到達できない「青海航海」になったときなどの事情による空振りはこの3回にカウントしていません。（そもそも荒天で北海道にたどり着けなかった経験などもありますしね。）
アザラシには遭遇できませんでしたが、ガリンコ号の流氷の航海は網走のおーろらと同様、とても刺激的でした。特に早朝のサンライズ航海はおすすめ。暗いうちに紋別港を出港し、流氷原へ向かいます。夜明け前なのでただでさえ酷寒なのですが、流氷が浮いている海に着くとさらに一段気温が下がった感じがする中、寒すぎて形が歪んで昇ってくる太陽には感動しました。
当然、航海中に流氷に止まるオオワシやオジロワシなどの大型猛禽類を見ることができますし、あの寒さの感覚は現場でしか味わえないことなので是非体験すべきものと思います。
、、、アザラシはガリンコ号乗り場の向かいにあるとっかりセンターで見ればいいのです！そういう意味では網走とは違って、紋別には確実にアザラシが見ることができる施設があるので、アザラシ好きには紋別の方が受けが良さそうです。
google画像検索で「流氷観光船名＋アザラシ」で検索をすると見えてくる流氷観光船から野生アザラシ観察の現実
私のわずかな流氷観光船搭乗の経験で、これらの観光船から野生アザラシを見ることは難しいとは結論を出せません。一方でこれらの船に数回に乗って「これらの船からの野生アザラシ観察は期待薄で、何度もトライするのはコスパが悪そう」と私は感じたので、私自身の乗船経験はそんなに増えないのです。他に野生アザラシを見られる可能性がある場所に時間を費やしたいですし。
なので、他の方の情報発信を利用させていただき、これらの流氷観光船からアザラシを見られるかを検証しましょう。
現在はSNSやウェブサイトを介して個人が世界に向けて一瞬で情報や写真を発信できますし、そのような情報をgoogle検索で一瞬で把握することも可能です。
なので、流氷観光船乗船中に野生アザラシの写真を多くの方が撮影できているなら、検索サイトの画像検索を利用すれば流氷観光船から撮影したアザラシ写真や動画がたくさん見つかるはず。つまり「おーろら号 アザラシ」、「ガリンコ号 アザラシ」といった言葉でgoogleの画像検索をすれば一発でこの辺りの状況を把握することができます。
（なお通常の文字による単語検索では、実際におーろら号やガリンコ号に搭乗をしていないのに「アザラシを見ることができるかも！？」的な提灯記事・こたつ記事も出てくるので、鵜呑みにしないほうが良いです。）
まずは「おーろら号 アザラシ」の検索（船名は号がつかない「おーろら」が正確なのですが、「おーろら アザラシ」だとぬいぐるみがヒットしまくるので、「号」を付けました）
おーろら号から撮影したアザラシ画像かな？と思えるのは上段左から１番目と7番目の遠めの画像のみ。この2枚は船の甲板から見下ろしている感がリアルに伝わってきます。左から2,４,６番目はそれっぽくも見るし、微妙かなぁ。。。
上段左から5と三段目の右1は凍った湖沼に上陸しているアザラシの雰囲気の写真なのでおーろら号からの写真ではないように思います。
いずれにせよ、おーろら号から撮られたアザラシ写真数は多くない、撮れたとしても結構遠めなことが窺えると思います。
続いて「ガリンコ号 アザラシ」です。
ガリンコ号から撮影されたと思える流氷上のアザラシ写真は上段左から4枚目くらいか。上段左から6枚目はこのサイト名の「海獣記」とあるとおり、私の写真です。これはオホーツクタワーから撮影した野生アザラシの写真です。流氷上のアザラシ写真ですが、ガリンコ号からの撮影写真ではありません。あと氷の上のアザラシの写真はガリンコ号からというよりは紋別港内の流氷で撮影された野生アザラシの写真のような雰囲気。他はオホーツクとっかりセンターの飼育アザラシの写真ですね。ガリンコ号からの流氷どーん、アザラシどーんといった写真が少ないのはお分かりいただけるのではないかと。。。
以上の通り、インターネット上の検索結果からも二大流氷観光船で撮影され発信されているアザラシ画像が極めて少ない状況にあります。
おーろら号もガリンコ号も野生のアザラシを見られる可能性はゼロではない、、、！が、狙い場所は沖の流氷の航海ではないかもしれません
私自身はこれらの流氷観光船はアザラシ捜索や観察にはそれほど向いているものではないと考えています。
その理由は上で書いたそもそもアザラシとの遭遇率が低そう問題以外にも以下の理由があります。
①いずれの船もかなりの大型船かつ速度もあるので、野生アザラシがいたとしてもあまり近くまで行くことは難しい。
②速度も速く１時間くらいの航海と決まっていますし、お客さんも多いのでじっくりゆっくり観察はできない。
これらの船はあくまで流氷の海の航海を楽しんだり味わったりするものです。
それでは「流氷観光船に乗っても野生のアザラシ見られないのか！」というと、そうとも言い切れません。以下2枚の写真をご覧ください。
2枚の紋別港所属のガリンコ号Ⅱの写真ですが、赤丸の中にゴマフアザラシが写っています。1枚目写真は明らかにアザラシを意識した船の動きをしていましたので、この写真を撮影した便に搭乗したお客さんはアザラシを見ることができたと思います。やはりアザラシが豊富な海ですので、いつでもアザラシを見つける可能性はあるのです。
そしてこの2枚の写真、ガリンコ号とアザラシが一緒に写っているわけですが、少し不思議に思いませんか？ガリンコ号が写っているので、ガリンコ号の船外から撮影していることになり、つまり「この写真を撮影しているお前はどこにいるんだよっ！？」という点。
これらの写真は紋別港のガリンコ号乗り場の波止場周辺の堤防やオホーツクタワーあたりから撮影したもので、この時のガリンコ号は紋別港内に押し寄せた流氷の上のアザラシにアプローチしているのです。少なくとも私の経験上では沖の流氷原より、紋別港内の方が野生アザラシ打率は良いです。紋別港内は野生アザラシをよく見かけるポイントでもあり、野生のアザラシを見かける可能性はあると思います。
おーろら号も網走港が網走川河口にあるという立地で、かつては上流の網走湖でアザラシが目撃されていたことからも、網走港内にアザラシがうろうろしている可能性は十分あると思います。
といういことで、流氷観光船に乗る場合は、港内でも注意を払うとアザラシが見られるかもしれませんので気を付けましょう！
知床半島羅臼の流氷・バードウォッチング船でアザラシを見ることはできる？
これまで網走と紋別の大型流氷観光船を紹介してきましたが、知床半島の羅臼町にも流氷の海に出るクルーズツアーがあります。
羅臼では小回りが利く小型の船を使って2025年現在、3つの事業者さんが春先のクルーズツアーを開催しています。
網走・紋別に比べてキャパも小さい分、マスツーリズムではなく、冬期はオオワシ・オジロワシ、夏季はシャチを含むイルカやクジラのウォッチングやその撮影にフィットする中身の濃いツアーを展開しているのが特徴です。
私が体験した冬季の初航海でも遠目ながらもアザラシの群れも見られましたし、非常に小回りが利くツアーを展開されていて海ワシ好きな視点からも満足度も高かったです。夏のイルカ・シャチのウォッチングツアーにも参加したこともありますが、これもシャチを見られてとても面白かった！
ということで、私は羅臼のクルーズツアーの形態が氷上のアザラシを日本で手軽に見られる可能性がある一つの解と思っていました。
2025年現在、羅臼の春先の海でアザラシを見られる可能性は極めて低そう。。。
そんな羅臼の海も、現在は海の状況は変わってきています。羅臼のクルーズを運営する会社の一つ、知床ネイチャークルーズさんは自社のツアーにおけるアザラシ（ゴマフアザラシ・クラカケアザラシ）を含む野生動物との遭遇した記録を2007年頃から毎月のデータを公表されています。
他のサイトに掲載されているデータを細かに触れるのは気が引けるのですが、ざっくり書くと「アザラシは2015年以降、遭遇率が低下しており2022年-2024年は0％」という衝撃のデータになっています。（「アザラシに会えるかも！？」と無駄に期待を持たせるのではなく、不都合でも真実のデータを出す姿勢はとても好感を持てます）
私は「そうはいっても知床だし、以前アザラシを観察した岩場の辺りなど、船からアプローチできないところもあるのでまだアザラシを観察できるのでは。」という淡い期待を持って、2024年3月に知床に行ってきました。
アザラシを求めて知床半島の海岸を2日ほどウロウロしたのですが、結果は盛大な空振り。一頭の個体も見つけることが出来ずでした。上陸する個体がいなくても海を泳ぐ個体がいれば、遊泳中の頭を見つけることもあるのですが、この時は、、、何というかアザラシの気配が皆無で、「これは、いねーな、、、。」という感触をひしひしと感じたものでした。
そして冒頭の流氷上のアザラシの画像です。
この写真は2008年の羅臼に押し寄せた流氷上のアザラシを撮影したものです。おそらく今の羅臼ではこのような写真を撮影することは難しくなっていると思われます。
ここまで羅臼のアザラシの状況が変わったの状況やその理由について、研究者でもないので、私には推測できません。
流氷の量が減少傾向であり、分布域や回遊している海域が北上しているような感覚はありますが、より南に位置する野付半島に夏期にやってくるゴマフアザラシの一群は今のところ相変わらずですし。日本近海のゴマフアザラシの中にも何個かの個体群というか系統があると思うのですが、春先に知床羅臼側にやってきた個体群の行動が変わったのか？逆に言えばまた数年で知床に戻ってくる可能性もあるのかもしれませんが。。。。
「アザラシといえば流氷」というイメージは間違いではないが、実際に流氷上のアザラシを一般人が見るのはかなり困難な状況になっている
以上をまとめると一般人が日本で流氷上にいるアザラシを見るというのは相当難しい状況にあるというのが今のところの結論です。
とはいえ、人間（一般人）が見るのが困難なだけであって、実際の流氷原の上ではアザラシたちは出産したり、子育てをしたり、ゴロゴロしたりしていると思います。今でも春先になるとゴマフアザラシやゴマフよりさらに北方で暮らすワモンアザラシの幼子たちがオホーツク海沿岸で保護されていることからも、アザラシの生活環にとって流氷の存在が重要なことは窺うことができます。そういう意味では「アザラシといえば流氷！」のイメージは正しいのです。
しかし、やはり流氷を取り巻く環境は厳しいものもあります。昔は流氷明けの海にいたアザラシを最近では見なくなったという漁師さんの言葉を載せた北海道新聞の記事もあります。
そういえばカナダのタテゴトアザラシのツアーも、2023年、2024年に続き、氷の状況が不安定で2025年シーズンも中止、今後ツアーの再開の見込みは無し、45年間の歴史に幕を下ろすという情報がありました。
私自身も北海道全土かつ年間を通してアザラシの見られる場所や時期についても、ここ数年でドラスティックに状況が変わっている実感はあるところです。以前見かけたところで全然気配がなかったり、その逆もあります。
しかし、本当に流氷上のアザラシを撮影した新しい写真を見ることが少なくなったと感じます。私自身も流氷とアザラシの写真はずいぶんの間、撮っていないですし。
流氷はいつまでもアザラシたちの良い生活の場であり、日本の近海にあって欲しいものです。
2025年の流氷の動きはどうなるでしょうか！
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