毎年、夏の終わり頃に北海道庁の水産部局から発表される前年度の海獣による漁業被害データのとりまとめ。今年も発表されました!
掲載されているのは、北海道庁水産林務部水産局水産振興課のウェブサイトです。今年から見て前年度、つまり2025年度(令和7年度)の北海道における海獣類(アザラシ・トド・キタオットセイ)による漁業被害状況のデータになります。
水族館、動物園の飼育されている海獣や野生の海獣の姿を見て楽しんで終わり、、、ではなく、北海道で起こっている人間の生活活動と海獣たちの軋轢にも目を向け、その先の海獣類と人間の共存のためには何をすればよいのか考えるきっかけとして毎年漁業被害のデータを集めてこのサイトでも紹介するようにしております。
2025年度の被害状況のデータも興味深いものがあり、アザラシ好き、海獣好きならこれだけでご飯3杯くらいは行ける気がします。

①海獣類(トド、オットセイ、アザラシ)による漁業被害状況(2025年までの年度ごとの推移データ)
最初は海獣類全体の漁業被害額の総論的なデータ。

2025年度のトド・オットセイ・アザラシによるトータルの漁業被害額は10億8767万円。昨年度よりは減少しました。トドとアザラシの被害額は減少。オットセイの被害額は微増。
被害集計対象のトド、オットセイ、アザラシのうち、トドの被害額は減少、オットセイの被害額は微増、アザラシの被害額は減少傾向にあります。
2025年度被害額の約9割をトドが占めて、9.5億円ほど。オットセイが0.5億円、アザラシが0.8億円です。アザラシの被害額がついに大台の1億円を切りました!
②2025年の北海道の各地方(振興局)別に漁業被害情報をまとめたデータ
次いで北海道の地方(振興局別)に整理してあるデータの紹介です。


これまでの年度のデータとも比較しながら見ていきましょう。
②-1:トドは日本海側の宗谷、留萌、石狩、後志の被害額が大きいのは昨年やその前の年と同様の傾向。トドによるこれらの4振興局管内の被害が、北海道の海獣漁業被害額のほとんどを占めてしまいます。その被害も間接被害の占める割合が多く、漁獲物をトドが食べちゃっていることが窺えます。
②-2:オットセイは被害総額の多くを後志管内、それも間接被害が占めるのも例年と変わらぬ傾向。後志地方に隣接する石狩管内は被害ゼロで、檜山管内も被害額はそれほどではないのもいつもと同じで、後志管内が狙い撃ちされています。また直接被害では釧路管内に集中していて、これも隣接する十勝管内で被害ゼロ、根室管内で被害が少ない(直接被害はゼロ)という傾向も相変わらず。
昨年も書いたのですが、隣接している行政界でこんなにきれいに傾向が分かれるのは若干不思議で、同基準で集計されているのだろうか。。。
②-3:アザラシは宗谷・留萌の日本海北部の2地域と日高・釧路・根室の被害額が大きい。主に前者はゴマフアザラシ、後者はゼニガタアザラシの分布と合致していてイメージ通りです。被害額は留萌、根室、宗谷管内という順です。そしてかつては甚大なアザラシの漁業被害のイメージがあった宗谷地方の漁業被害額は釧路・根室に抜かれました。
③海獣の種類別・地方(振興局)別にまとめた漁業被害状況
続いては獣種と地方(振興局)ごとに分けたデータを詳しく見てみましょう。
③-1 アザラシによる2025年の漁業被害状況
まずはアザラシから。

2025年度のアザラシによる漁業被害の総額は8349万円で、2024年度から2394万円ほど減少し、ついに1億円を切りました!
①宗谷地方はゴマフアザラシが多く生息する地域で、平成30年度くらいの被害額をご覧の通りアザラシ漁業被害が激しい地域でしたが、2024年には2000万円を切り、さらに2025年は1376万円に。前年比でも被害額は3~4割減りました。被害額は減るということが何を示すのか。単純にアザラシの個体数が減ったのか、アザラシに食われる魚や被害を受ける漁具が少なくなったのか、被害を受ける漁業者そのものが減ってしまって被害額として上がってこなくなっているのか、、、。このデータだけではわからないところはあります。
②留萌地方は道内で最もアザラシによる被害額が多い地域ですが、それでも被害額は前年比で大きく減って被害額は2450万円です。2022年・23年・24年と3年間は4000万円台で高止まりしていたものが動き出した感じがします。
③後志の被害額は2023年は多かったものの、再び落ち着く傾向になっています。かつては5000万円近くの被害があったのに今は30万円。隔世の感があります。
④ゼニガタアザラシが定住する襟裳岬がある日高地方は、2023年は異常に被害額が少なかったのですが、昨年度から再び増加傾向?となり、1200万円弱へ。ゼニガタアザラシが定住している地域ですし、ある程度は被害が出ている地域だと思います。
⑤十勝のアザラシによる漁業被害額は昨年に引き続きゼロ。ゼニガタアザラシがいる地域だけど、この数字が続くのでしょうか。
⑥釧路の被害額は激増。97万円から1430万円と10倍以上の伸び率。一年でなぜこんなに増えた???
⑦釧路のアザラシによる被害は爆増しているのに、お隣の根室地方は大幅に被害額が減少。3364万円から1491万円になり、半減以上の減少ぶり。なぜこんなに減ったのか。根室地域から釧路地域にアザラシの移住でも起こっているのでしょうか…。
⑧オホーツクはアザラシによる漁業被害額は少ない地域でしたが、2024年は183万円だったのが、2025年に387万円と被害額が倍増。被害額自体はまだ少ないけども、上昇傾向にあるのが気になります。
③-2 トドによる2025年の漁業被害状況

トドの被害額は9.47億円で、前年比で8000万円ほど被害額が減少しました。ただしアザラシやオットセイに比べ被害額が桁外れですし、漁業被害は深刻です。
①トドの被害は日本海側北部~中部の宗谷、留萌、石狩、後志に集中しています。宗谷が800万円被害額が増額しておりますが、他の地方は被害額は減少~横ばい傾向。檜山や渡島は2024年は被害額が増加傾向か?と思ったのですが、落ち着いている傾向にあるようです。
②太平洋側の被害は根室管内のみ。2017~2018年に比べれば、被害額はだいぶ減っているとはいえ、2023年を底に被害額は増額傾向?昨年の8888万円から800万円ほど増えてしまいました。
オホーツク海側や根室を除く太平洋側沿岸でトドによる漁業被害がないのは相変わらずで、トドの被害が出る地域、分布地域は明確に別れているようです。
③-3 オットセイによる2025年の漁業被害状況
続いてオットセイ。

この数年はオットセイの漁業被害額は減少傾向にあり、10年前の2016年度は2億8千万あった被害額も、2025年は5600万円と、2016年当時の約1/5にまで減っています。オットセイの漁業被害額は後志管内が被害額の全体の8割を占めて、約4200万円ほどのようです。
まとめ・「被害額が減った」は、本当に海獣にとって良いニュースなのか?
毎年、この北海道の海獣類による漁業被害データを眺めています。今年もアザラシの被害額は1億円を下回り、トドも前年から減少しました。数字だけを見れば、海獣による漁業被害は改善傾向にあるようにも見えます。
もちろん、漁業者にとって被害が減ることは喜ばしいことです。海獣と漁業の間に生じている軋轢が小さくなっているのであれば、それは人間と海獣の共存という意味でも良い方向でしょう。
ただ「漁業被害額が減った=海獣による影響が小さくなった」と、そのまま考えてよいのか、長年引っかかっているところです。
そもそも「漁業被害額」は、海獣の個体数を直接表している数字ではありません。そこには、
- 海獣がどれだけ生息しているのか
- どこに分布しているのか
- その海域にどれだけ魚がいるのか
- どの魚種を漁業者が獲っているのか
- どれだけの漁業が行われているのか
- 漁業者が何人いるのか
- 漁具がどれだけ使われているのか
- 魚の価格がいくらなのか
といった、海獣側・魚側・人間側のさまざまな要因が絡んできます。極端な話をすれば、海獣がたくさんいて魚を食べまくっていたとしても、その場所で漁業をする人がいなければ「漁業被害」は発生しません。
つまり、「被害額ゼロ=海獣による影響ゼロ」ではありません。
これは今回のデータを見るうえで、かなり重要なポイントだと思います。例えば、今回のアザラシのデータでも、釧路で被害額が大きく増えた一方、隣接する根室では大きく減少しました。数字だけを見ると「根室ではアザラシによる問題が解消し、釧路では悪化した」と考えたくなります。しかし、この数字だけから単純にアザラシが根室から釧路へ移動した、と判断することはできません。漁業の種類や規模、漁獲される魚種、漁業者数、漁具の使用状況などが変化しただけでも、統計上の「被害額」は大きく変わり得ると思われますし。
そして、もう一つ気になるのが北海道全体の漁業そのものの変化です。近年、北海道では漁獲量が減少しています。特に、かつてアザラシとの関係で大きな問題となっていたサケなどについても、以前とは漁業を取り巻く状況が大きく変わっています。
もし、「海獣が減ったから被害額が減った」のではなく、「海獣が被害を与える対象となる漁業そのものが縮小したから被害額が減った」という側面があるのだとすれば、同じ「被害額の減少」でも意味はまったく違ってきます。
これは少し皮肉な話です。海獣による被害が減ったことを喜んでいたら、その背景には、漁業そのものがシュリンクしていた。。。そんな可能性も否定できない、どころか結構可能性はあるんじゃないかなと思います。。
だから私は、毎年この統計を見るたびに、単純に「今年は○億円減った、よかった」とは思えません。むしろ気になるのは、
「なぜ被害額が変動したのか?」
ということです。海獣が減ったのか。海獣の分布が変わったのか。魚が減ったのか。漁業の規模が変わったのか。漁業者が減ったのか。それらが全部少しずつ影響しているのかもしれません。
「漁業被害額」という一つの数字の裏側には、海獣だけではなく、北海道の海そのものと、そこで暮らす人間の生活の変化まで映り込んでいます。そして、ここが海獣好き・北海道好きの一人として私がこの統計を毎年追いかけている理由でもあります。
海獣を守ることと、漁業者の生活を守ることは、本来どちらか一方を選ぶ話ではないはず。「海獣が生きていける海」と「人間が漁業を続けていける海」をどうやって両立させるのか。
そのためには、被害額だけを見るのではなく、海獣の個体数や分布、魚の資源量、漁獲量、漁業者数など、さまざまなデータを重ねて見ていく必要があるのだと思います。海獣のことを考えることは、結局、その海で暮らす魚や漁業者、そして海そのものの変化を考えることでもあるのかもしれません。
海獣による漁業被害額は少ないに越したことはないですが、何だか手放しで喜べないような、モヤモヤしてしまうところもあります。
最後に生息地から離れて暮らしている海獣好きな人たちが、海獣の共存のためにできることについてまとめたコーナーも紹介しておきます。

以下は過去の北海道における海獣漁業被害データに関連するコーナーです。過去の様子が気になる場合、ご参照ください。






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