動物園や水族館にける飼育動物の展示や情報発信について、各種規定の記載や今後の展開、自分の考えを整理しておきたいと思って、長らく文を推敲していたのですが、最近この辺りの分野で心がざわざわすることが多いので、思い切ってまとめました。
なお今回の記載内容は「このサイトを作っている人はこう思っている」レベルの個人的な解釈という前提の物でありつつも、明文化された基準や規定などを紹介しようと思います。
このサイトは水族館や動物園をよく訪問される方の閲覧も多いと思いますので、そのような方が動物園・水族館の展示や情報発信のあり方に訪問者の立場からも考えるきっかけになればいいなぁと思います。
前提が長くなってしまいましたが、本題の動物園・水族館の展示や情報発信について、思うことを書いていきます。
動物園や水族館における展示や情報発信に関する国や関係団体の明文化された規定ではどのように扱われているか
まずは日本国内の動物園や水族館における飼育動物の展示のあり方や情報発信について、各施設は何に注意をするべきか(or何をしたらダメなのか)、最大公約数的な内容が書かれたある程度公的性質を持つ文書が何個かありますので、まずはそれらを紹介します。
動物園や水族館が好きな方もこれらの中身を知るのは損ではないはず。。。
展示動物の飼養及び保管に関する基準(環境省告示第33号)
一つめが国の役所である環境省の告示「展示動物の飼養及び保管に関する基準(環境省告示第33号)」です。平成16年4月30日に告示され、何度か改正を経て、令和2年環境省告示第21号が最終改正となってます。この告示はタイトルの通り、展示動物を飼育する時の施設が留意すべき心得的な物を環境省ががまとめているのですが、この「第4 個別基準」の中に「1 動物園等における展示」というズバリな項目があります。全部引用するには長いので、特に今回のテーマと関係が深そうな項目を以下に引用します。原文全体は環境省サイトで読むことができます。
第4 個別基準
展示動物の飼養及び保管に関する基準 https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/1_law/baseline.html
1 動物園等における展示
管理者及び飼養保管者は、動物園動物又は触れ合い動物を飼養及び保管する動物園等における展示については、次に掲げる事項に留意するように努めること。
(1)展示方法
動物園動物又は触れ合い動物の展示に当たっては、次に掲げる事項に留意しつつ、動物本来の形態、生態及び習性を観覧できるようにすること。
ア (略)
イ 動物園動物又は触れ合い動物の飼養及び保管を適切に行う上で必要と認められる場合を除き、本来の形態及び習性を損なうような施術、着色、拘束等をして展示しないこと。
ウ、エ、オ(略)
カ 動物園等の役割が多様化している現状を踏まえ、動物の生態、習性及び生理並びに生息環境等に関する知見の集積及び情報の提供を行うことにより、観覧者の動物に関する知識及び動物愛護の精神についての関心を深めること。
(2)観覧者に対する指導
動物園動物又は触れ合い動物の観覧に当たっては、観覧者に対して次に掲げる事項を遵守するように指導すること。
ア 動物園動物又は触れ合い動物にみだりに食物等を与えないこと。
イ 動物園動物又は触れ合い動物を傷つけ、苦しめ、又は驚かさないこと。
(3)、(4)(略)
(5)展示動物との接触
ア 観覧者と動物園動物又は触れ合い動物が接触できる場合においては、その接触が十分な知識を有する飼養保管者の監督の下に行われるようにするとともに、人への危害の発生及び感染性の疾病への感染の防止に必要な措置を講ずること。
イ 観覧者と動物園動物及び触れ合い動物との接触を行う場合には、観覧者に対しその動物に過度な苦痛を与えないように指導するとともに、その動物に適度な休息を与えること。
太字・赤字強調は当サイトが実施
書いてある内容は至極真っ当な内容だと思います。国の文書ですしね。
日本動物園水族館協会(JAZA)の「動物福祉規定」及び「倫理福祉規定」
次に紹介するのが日本動物園水族園協会(JAPANESE ASSOCIATION OF ZOOS AND AQUARIUMS:略称は”JAZA(ジャザ)”です。正式名称が長いので以下「JAZA」と表記します)がまとめている規定です。
そもそもJAZAって何?
JAZA既定の中身を紹介する前に「そもそもJAZAとは何か」ですが、正式名称のとおり日本の動物園・水族館を会員としている協会で、実務的には会員園館の飼育技術の向上の研修をやったり、種別に日本国内の動物園・水族館における共通的な繁殖計画を立てたりなどしています。
JAZAは4つの役割として「種の保存」「教育・環境教育」「調査・研究」「レクリエーション」を掲げており、メジャーどころの動物園・水族館は正会員になっているところが多く、事実上、日本の動物園・水族館の連合組織的な位置づけでもあります。
会員となっている具体園館名をあげると、恩師上野動物園、横浜ズーラシア、鴨川シーワールド、東山動物園、大阪海遊館、美ら海水族館などで、大規模な動物園水族館は会員になっているところが多い。北海道のアザラシ飼育施設でいえば、円山動物園、旭山動物園、釧路動物園、おびひろ動物園、おたる水族館、サンピアザ水族館、登別ニクスが会員園館。詳細な会員園館が気になる方はJAZAのサイトをご覧ください。
もちろんJAZA会員ではない動物飼育施設もあるわけで、北海道のアザラシ飼育施設の非会員施設は、オホーツクとっかりセンター、市立室蘭水族館、稚内市立ノシャップ寒流水族館等です。なので、非会員園館はJAZAの取り決めに従う必要はない、、とも言えますが、JAZAの動物園・水族館といった施設に対する影響力は大きく、JAZAの規定が日本国内の動物園水族館のデファクトスタンダードとなっている面もあるのではないかと思います。
JAZAの「動物福祉規定」
JAZAの動物福祉規定では動物園・水族館における展示や情報発信に関連し、以下のような記載があります。これも長いので、全文抜粋はやめて、展示や情報発信に関係あるところのみの抜粋。
(教育活動)
JAZA動物福祉規定 https://www.jaza.jp/assets/document/about-jaza/document/2021/doubutsu-hukushi-kitei.pdf
第5条 動物を用いた教育活動は、動物福祉の向上を常に考慮して実施し、次の各号に適合し、生物多様性や野生生物の保全に寄与する内容とする。
(1) 動物とのふれあい等に際しては、人と動物双方に対し、有害となる方法での活動を行わないこと。
(2) 教育機関や研究機関との連携を図り、教育活動を通じて広く正しい知識の普及に寄与するものであること。
(3) 動物に係わる情報発信に関しては動物の自然な行動に焦点を当て、動物の健康を害する危険性がある行動、過度な擬人化は行わないこと。
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JAZAの「倫理福祉規定」
上の規定と名前が似ているので若干紛らわしいのですがJAZAには倫理福祉規定というものもあり、ここにも動物園の展示に関わる記載があるので以下抜粋します。
(展示)
JAZA 倫理福祉規定 https://www.jaza.jp/assets/document/about-jaza/document/2016rinriyoukou.pdf
第6条 展示を行うにあたっては、次の各号に適合する動物福祉上必要な条件を満たす施設において、教育的な配慮に基づく展示計画によって行うものとする。
(1) 展示施設は、動物の種類、生理に適合する規模と構造を有し、本来の生態および習性の発現を促すことができるものとなるように努めること。
(2) 展示は、その種の本来もっている習性や形態が正しく表現されるものであり、かつ、生態系の中で果たす役割が理解されるように配慮されていること。
(3) 展示計画を具体化し、推進するため、教育普及活動を行うこと。
(教育活動)
第7条 動物を用いた教育活動は、次の各号に適合し、生物多様性や野生生物の保全に寄与する内容とすること。
(1) 演示展示は、動物の自然な行動に焦点を当て、動物の健康を害する危険性がある行動、過度な擬人化は行ってはならない。
(2) 動物とのふれあいに際しては、人と動物双方に対し、有害となる方法での活動を行わないこと。
(3) 教育機関や研究機関との連携を図り、教育活動を通じて広く正しい知識の普及に寄与するものであること。
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※倫理福祉規定は2023年9月現在のJAZA公式サイトのトップページからはたどって見られないので、もしかして廃止扱いかもしれません。
世界的な流れは?世界動物園水族館協会(WAZA)が作成した「動物と来園・来館者のふれあいガイドライン」
JAZAの世界版ともいえる世界動物園水族館協会(WAZA:World Association of Zoos and Aquariums)。WAZAの頭のWorldをJAPANにして日本の協会(JAZA)が発足したというべきかも。
WAZA加盟メンバー園はこちらから確認できます。WAZAと日本の動物園水族館はイルカ関係でごにょごにょあったせいか、日本加盟園館は動物園が中心ですが、JAZA自体がWAZAメンバーでもあります。
そんなWAZAが2020年に”動物と来園・来館者のふれあいガイドライン”というものをまとめております。その中に今回のテーマである展示や情報の発信にかかわりが深そうな”メッセージの伝達”というセクションがあるので紹介しましょう。全文はこちらから。このガイドラインは他にもふれあい活動に関する内容も多く興味深いですので気になる方は、ぜひ他部分もご覧ください。なお日本語訳を作られたのはJAZAのようです。
メッセージの伝達
動物園・水族館は、動物や自然界に対する理解や敬意を醸成するために、保全に関わるメッセージの伝達に加え、動物の飼育ケアに関わる動物福祉や管理過程について説明することを検討しなければなりません。これは、トークや講演、動物福祉憲章、解説板、保全教育プログラムなどを通して行うことができます。動物とのふれあいが野生動物とのつながりを作ることができる一方、野生動物をペットとして飼育すれば、その福祉が必ず損なわれてしまうために良いペットにはならないことを、動物園・水族館は明確にしなければなりません。提言
世界動物園水族館協会(WAZA)動物と来園・来館者のふれあいガイドライン
1.全てのふれあい体験や関連するプレゼンテーションにおいて、伝えるメッセージは、保全意識を向上させ、保全成果を上げ、動物や自然界への敬意を促すようなものでなければなりません。種の保全が、最も重要なメッセージ・目的でなければなりません。
2.正常かつ野生下で自然である行動が示されないような方法で、ふれあい体験を実施したり、関わったり、参加したりしないこと。来園・来館者が、動物をエキゾチックペットや「演技者」のように受け取るかもしれないような方法で、動物を紹介してはいけません。
3.来園・来館者の意識を高め、そこから責任ある行動を促すために、写真撮影の機会には適切な動物福祉と保全のメッセージを伝える必要があります。
4.動物が種に特異的な行動ができ、それを支持するような動物の描写や見せ方ができるように、必ず尊厳をもって全ての動物を取り扱うような、ふれあい体験の過程を確立すること。
5.トークや講演、ソーシャルメディア、解説板、他のインタープリテーションを通じて、動物園・水族館において、動物福祉がどのように改善されてきたかを説明すること。
6.ふれあい体験プログラムを作成する際には、保全教育の効果に関する研究、情報、専門知識を利活用してください。スタッフやボランティアは、自らの「ペット」であるかのように動物を見せてはいけません。
https://www.waza.org/wp-content/uploads/2020/05/JP_WAZA-Guidelines-for-AVI-Council-approved-April-2020-final.pdf
太字・赤字強調は当サイトが実施
これらはガイドラインという扱いですが、世界の潮流がよくわかります。
動物園や水族館における展示や情報発信に関する留意事項3点のまとめ
種々の資料の引用が長くなったので、環境省の告示、JAZAの規定のうち、展示や情報発信に関する留意事項をざっくりまとめると、以下の3点と思われます。(WAZAのふれあいガイドラインも気にはなりますが、国内園館への拘束力・影響力という観点から、ひとまず国内もので。)
①その種が持つ本来の形態、生態及び習性がわかるようにしてね。生態系の中における役割や生息環境もできれば紹介してね。
②その種本来の形態及び習性を損なうような施術、着色、拘束等をして展示はダメ。過度な擬人化もダメよー。
③動物や人間双方に病気の危険や危害が及ばないように。
①②③でだいぶ性格が違う内容です。①は積極的にやるべし!という内容なので、わかりやすいですし、実際各園館いろいろな工夫をして、ガシガシやられていると思います。③もまぁ当たり前かなと。②は「やってはダメ」方向の内容で、裏返すと「どこまでならやって良いのか」になるのですが、この解釈は非常に難しい。次項ではこの②のやっちゃダメな内容について深掘りします。
飼育動物の展示や情報発信について、「その種本来の形態及び習性を損なうような施術、着色、拘束等はダメ。過度な擬人化もダメ」というのはどういうこと?
上でまとめてきたように、環境省告示やJAZAの規定で、飼育動物の展示や情報発信について、「その種本来の形態及び習性を損なうような施術、着色、拘束等はダメ。過度な擬人化もダメ。」とされています。この内容について個人的には諸手を挙げて賛成で、その通りだと思います。
が、ふと立ち止まってみると、この裏返し、「それならどこまでならOKなのか?」というのはこの動物園や水族館の飼育動物の展示、情報発信に関する根源的な問いになると思われますし、おそらく万人が納得をする統一的なラインを明確にすることは非常に困難と思うのです。
例えば「過度の擬人化」について、野生で生息する個体は当然”個体名”は持っていません。よって飼育する動物に名前を付けることも”擬人化”のひとつとして見ることもできます。
(野生動物を保護して、野生に戻すことを目指す場合、その個体にあえて名前を付けないで記号や番号で整理することはよくあることです。例えば2023年で12番目に渋谷で保護されたメスの個体として”23-12-SB-F”といった記号と数字の羅列で区別するといったような。)
動物園で終生飼養を前提とした個体に人間のように個体名を付けることを”過度の”擬人化なのでやめるべし!と捉える方は少数だと思いますが、ゼロとは言い切れません。(私も終生飼養個体の名づけを”過度”の擬人化とは思いませんし、名付けはその個体や種に親しみや興味を持ってもらうことにつながり、終生飼養個体に名前を付けないまま飼育する場合と比較して、名前を付けるほうが最終目的である”種の保存”には結果的にプラスに働くように思うけども。)
このような野生動物が自然環境で生きている時には関係ないけど、人間の飼育下に入るがゆえに起こりうる広義の擬人化行為は他にも考えられます。
・人間界のイベントに合わせた展示は本来の習性と異なる・あるいは過度の擬人化にあたらないか?(正月とかクリスマスっぽい演出・これらのイベントは人間界のみのものだが・・?)
・飼育動物を人間が抱くことは拘束にあたらないのか?(”人間が抱く”といっても例えばその個体の健康管理のための健康診断や採血時の保定のための行為と、客に抱かるなど愛玩的というか見世物的に観点で行うかで、意味合いが異なってきて、前者に目くじらを立てる人は少ないでしょうが、後者を動物園がやっちゃったらWAZAのガイドラインの観点からはまずいように思います。)
・服や帽子などを着用させたりすることは拘束及び本来の形態を損ねて擬人化することにならないか?(野生動物は、服を着ることも帽子をかぶることもない。また他の種のような恰好をすることは無い。アザラシに猫耳カチューシャを付けるとか、、、?)
どこまでが適正か、個別具体事例における判断は各飼育施設側に任されていると思われます。現状としては上の規定やWAZAのガイドラインも参考にしつつ、「大部分の人がOKとするだろう」辺りを狙ってやっていくしかないのかなーと思います。
また受け止める側、来訪者側がどこまで許容するかも、個人によって閾値がかなり異なるように思います。特に動物園・水族館の飼育動物を、野生動物の延長として捉えている人か、愛玩動物の延長と捉えている人かで相当異なるはず。私個人でも、上述黒太字行為でも「問題ない」と受け止めるレベルから、「やりすぎ」と感じるゾーンもあることが想定できます。なので、目の当たりにして、その都度、判断していくことになりますが、それも私の主観に過ぎません。
私自身の考えは、上に引用した環境省やJAZAの文書を鑑み「その展示内容が生物多様性や野生生物の保全に寄与するか、その種の本来もっている習性や形態が正しく表現されるものか」というあたりが判断基準になると考えます。
単にクリスマスやハロウィンの季節に、飼育動物にイベントにちなんだ服を着せたり、被り物をさせて、「かわいー☆!」的な感じで来館者に写真を撮らせたりといったようなイベントはアウトだろうなと思います。
”動物園・水族館の飼育動物と人間の距離感は時代で変化した”という前提がとても重要&そして現在も進化し続けている分野である
この動物園の飼育動物の展示方法や情報発信のあり方で難しいと思う観点のひとつが、「大部分の人がOKとするだろう」ラインが、時代によって変化してきているという点です。
鎌倉時代、江戸時代、昭和のそれぞれの時代では当たり前だった社会風習が、令和の時代ではありえないでしょー、というのはよくあること。(例えば電車の中の喫煙は昭和では当たり前でしたが、令和の時代にタバコを車内で吸える電車というのはほぼ絶滅していますよね。)
一般的に動物園や水族館に求められるハードルは上がってきていると思いますし、言い換えると現在から見れば昔が緩すぎた、と言えるのかもしれません。
昔の動物園・水族館、興行、レクリエーション、言葉は悪いですが”客寄せパンダ”という言葉からもわかる通り、見世物小屋的な面が大きかったのです。ここから出発して、現在はJAZAの4つの目的に種の保存、教育、研究は掲げられていることからも、”そんならしっかり対応しなければだめでしょー”となってきているのも当然かもしれません。
このような動物福祉や飼育動物に対する倫理といった分野は2000年前後くらいからむくむくと起き上がってきて、2020年代に入った現在も発展し続けている分野。上で紹介した大本の環境省の「展示動物の飼養及び保管に関する基準(環境省告示第33号)」にしても最初の策定は平成16年(2004年)で、最終改正が今のところ令和2年(2020年)。WAZAのガイドラインも2020年。まだ20年程度の世界です。
しかしこの20年の間に動物園・水族館内でも、もっと広い社会環境という面でも人間と飼育動物の関係性は相当変化・進化して来たというのも実感としてあります。
動物園内の飼育動物の飼育技術・管理という観点では、健康管理がスムーズ・ストレスなく行えるような訓練を施し、飼育動物のストレス軽減にも寄与するハズバンダリートレーニングの概念が広がり、動植物園水族館の職員さんと飼育動物の関係性も進化しています。また社会状況の変化という点では、わかりやすい事例で言えば新型コロナウィルスが社会に与えたインパクトからの人獣共通感染症やワンヘルスの考え方の浸透。動物と人間の触れ合いのあり方もここ数年でダイナミックに考え方が変化・深化している分野です。
このサイトは2005年くらいからやっているので、2000年代に動物園・水族館を訪問し、紹介している内容について、当時はOKだったけど、現在から見たらどうなの?という点も、存在するかもしれません。例えばクリスマスイベントではアザラシにトナカイの被り物をしたりサンタの服を着せるのは、今の目線で見れば微妙かもと思いますし、私も仮に目の当りにしたら、微妙な気持ちになりそうです。が、一方で当時は当たり前で素直に受け入れられる社会状況だった、、、とも言える。
私自身への自戒も込め、ですが、訪問者側も「昔はOKだったことが、今はダメになっているのは残念。めんどくさい時代になったなー」と思うのではなく、動物園水族館を取り巻く考え方も進化していることを踏まえ、訪問者自身の考えもしなやかにアップデートしていく必要があると考えます。(これが出来なくなると「老害」と言われるんだろうな。。。老害というのは単に年を取ることではなく、周りに合わせた適切な変化ができなくなる、あるいは変化を受け入れられなくなることだと思います。)
一方でこのようにダイナミックに変化するのが飼育動物と人間の関係性の考え方であり、現在の考えや基準を過去に遡及して、過去におけるあり方を批判するのもあまり意味が無いこと。過去に問題があったからこそ、問題が提起され、現在の制度の整備や意識の変革につながっているわけですし。極端な話ですが、例えるなら現代日本の法律で、戦国時代や江戸時代の打ち首などを裁いても意味がないのと一緒。歴史の反省や技術革新を踏まえ現代社会に繋がっているのです。
札幌市動物園条例と円山動物園の事例の紹介~今後の動物園・水族館のモデルになりうるか?~
最後に今後の動物園・水族館の展示や情報発信のあり方のモデルケースになるかもしれない新しい事例を紹介します。
市営の札幌市円山動物園を抱える札幌市は「札幌市動物園条例」を令和4年6月に施行しました。
これがなかなかアグレッシブな条例で、「なぜ条例を作ることになったのか」を紹介しているページは「日本には、動物園の運営目的や実施事業を総合的に定めた法律がない。」「動愛法や種の保存法はいずれも動物園が果たすべき社会的役割に関する規定内容は、十分とはいえない状況」と言い切っている辺りなど痺れますし、この条例だけでもう1エントリーくらいできるくらい中身が濃い条例です。
今回のテーマは動物園の展示や情報発信関係なので、その辺りの条例条文を中心として、紹介しようと思います。条例全文はこちら。
(目的)
第1条 この条例は、動物園が野生動物の保全を通じて生物多様性の保全に重要な役割を果たしていることに鑑み、動物園の活動に関し、基本理念を定め、市、市民及び事業者の責務を明らかにするとともに、動物園に関する施策等について定めることにより、現在及び将来世代のために野生動物を保全し、自然と人が共生できる持続可能な社会の実現に寄与することを目的とする。
(定義)
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
(1) 生物多様性 生物多様性基本法(平成20年法律第58号)第2条第1項に規定する生物の多様性をいう。
(2) 野生動物 家畜化されておらず、かつ自然環境下において生息する動物をいう(当該動物を動物園において飼育し、又は繁殖したものを含む。)。
(3) 動物園 動物園、水族館、昆虫館その他いかなる名称であるかを問わず、生物多様性の保全に寄与することを目的として、野生動物を主とした飼育及び展示を行うほか、野生動物の繁殖による生息域外保全の取組並びに野生動物の保全に関連する調査研究及び教育活動を行う施設をいう。
(以下略)(動物の展示及び教育活動における原則)
札幌市動物園条例 https://www.city.sapporo.jp/zoo/ordinance/ordinance.html
第14条 円山動物園において動物の展示及び教育活動を行うに当たっては、野生動物に関する情報を正確に伝え、その尊厳を尊重するものとし、次に掲げる事項を行ってはならない。ただし、第1号に掲げる事項について、生物多様性の保全に寄与する教育的効果があり、かつ、良好な動物福祉を確保しているものと市民動物園会議が認めた場合は、この限りでない。
(1) 利用者に野生動物に直接接触する機会を提供すること。
(2) 動物に人を模した姿、格好又は行動をさせようとすること。
(3) 動物の本来の生態とは異なることを、人の姿、格好又は行動に当てはめて表示すること。
この条例を拝見し、まず、すごいなと思ったのは第2条の定義。
(2) 野生動物 家畜化されておらず、かつ自然環境下において生息する動物をいう(当該動物を動物園において飼育し、又は繁殖したものを含む。)
となっているので、動物園で飼育している動物も明確に”野生動物”と定義しています。動物園で飼育している動物は野生動物として扱うのか、解釈がぶれることもありますが、この条例では明確に家畜化されていない飼育動物はすべて「野生動物」としています。円山動物園はゴマフアザラシ、ゼニガタアザラシを飼育していますが、これらの飼育個体も野生動物として扱われるということですね。
そして第14条。禁止事項の羅列になりますが、その筆頭に(1) 利用者に野生動物に直接接触する機会を提供すること。
→訪問者・利用者が野生動物(家畜化されていない飼育動物)触るのを明確に禁止しています。飼育されている野生種に触るのはダメ、というのが基本になってきているんですね。柱書きで但し書きで例外規定を設けていますので、例えば特別なイベントなどの場合、市民動物園会議が認めれば接触もOKよ、としています。極めて現実的で妥当なラインだと思います。
第14条(2)、(3)は擬人化禁止を強く謳っています。JAZAの動物福祉規定の擬人化禁止から一歩踏み込んでより具体的にした内容。動物園水族館界隈では、動物の擬人化はNG方向に進んでいるのを強く感じます。
おそらくこの札幌市の動物園条例はとても先駆的な事例。これを受け、他市やJAZA、場合によっては環境省や他の動物団体なども影響を受け、さらに次の一歩につながるかもしれません。
私自身もどのように進化していくのか想像できないところもありますが、新しい動きの情報は引き続き集めて、自陣の考えもアップデートしていきたいと思います。
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