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アザラシ飼育施設のプールの深さや広さ等の基準について

アザラシは日本中の水族館や動物園でのプールで飼育されています。プールの多くはアザラシが泳ぐ水槽部分と上陸場で構成されるスペースになっておりますが、プールは各水族館・動物園によって千差万別で、各園館の個性が最もよく出る部分です。

そしてアザラシが暮らすプールはアザラシにとっては家であり、アザラシの生活のクオリティに直結する施設です。

広々としたプールでアザラシがゆったり暮らしている施設もあれば、水深が深いプールで悠々とアザラシが泳ぐことができる施設もあれば、逆に泳ぐプール部分が小さかったり、休憩したりゴロゴロ転がったりする陸部分が少なかったりな窮屈そうなプールで暮らしているアザラシもおります。

ゴマフアザラシが暮らすプール。(男鹿水族館GAO)

アザラシの飼育施設といっても、いろいろな施設があるわけですが、飼育アザラシは様々な事情で人間の飼育下で暮らしているわけで、最低限の快適さは確保してあげたいところです。

となると、
アザラシが「健康で文化的な最低限度の生活」を送るのに必要なプールの広さや深さはどのくらいなのか?
アザラシが暮らすのにどのくらいの広さや深さがあれば十分な施設といえるのでしょうか?
といったことが気になりますし、そのような飼育施設が最低限の確保すべき基準はあるのでしょうか?

今回はアザラシ飼養に適正なプールの広さや深さなどの条件について、深掘りしたいと思います。

  1. 日本動物園水族館協会(JAZA)が作成する「適正施設ガイドライン」の紹介と限界
  2. アメリカ農務省の動物福祉法及び動物福祉規則に定められる飼育施設の基準
  3. アメリカの動物福祉規則におけるアザラシ飼養施設の基準について
    1. アザラシ飼育で必要な最小の陸上エリア(DRA)の面積は?
    2. アザラシ飼育で必要最小のプールの表面積は?
    3. プール内の最低水平距離(MHD)は?
    4. プールの水深の基準は?
  4. アメリカ動物福祉規則のアザラシの飼養基準をまとめる
  5. アメリカの動物福祉規則の飼育施設基準をクリアするアザラシのプールを考えてみよう
    1. ゴマフアザラシを2頭(オス1頭・メス1頭)を飼育する場合
    2. ゴマフアザラシを9頭(メス)を飼育する場合
    3. ゴマフアザラシ(♂1頭)、ワモンアザラシ(♀1頭)、アゴヒゲアザラシ(♂1頭、♀1頭)を飼育する場合
    4. カリフォルニアアシカ4頭(♂1頭と♀3頭)とゴマフアザラシ5頭(♂1頭♀4頭)を飼育する場合
  6. 今後、日本でもアザラシ飼育における適正施設ガイドラインが制定されるか?
  7. 2025年8月2日付記:JAZAが”適正施設ガイドライン 【ゴマフアザラシ属 Phoca 】”を公開しました!
    1. JAZA作成の”適正施設ガイドライン 【ゴマフアザラシ属 Phoca 】”ではアメリカの動物福祉基準を引用しつつも、私の解釈と異なるところもある

日本動物園水族館協会(JAZA)が作成する「適正施設ガイドライン」の紹介と限界

日本の動物園や水族館において、ある動物を飼育する場合の飼育施設について、公的機関が法令等で数値を定めているものはありません。

では全く何もないかというとそうでもなく、動物園や水族館で構成される「日本動物園水族館協会(JAZA)」が作成している「適正施設ガイドライン」が、おそらく日本のこの手の動物の飼育施設のガイドラインとして最大公約数的なものになると思われます。

このガイドラインはJAZAが加盟園館が動物を飼養する際の望ましい基準として示したものですが、ガイドラインですのであくまで「このガイドラインをクリアすることを目指しましょう」というもの。ガイドラインの記載内容をクリアできない施設や飼養条件で動物を飼ったからといって罰則のようなものがあるわけではありません。が、日本国内の飼育施設を考える上で、事実上の基準として捉えて良さそうに思います。

適正施設ガイドライン|日本動物園水族館協会

JAZAの「適正施設ガイドライン」は、種ごとに定められており、現在進行で作成・整備が進めらているものなので、まだ適正施設ガイドラインに示されていない種もおります。動物園・水族館で飼育されている種でもむしろガイドラインがまだ示されていない種の方が多いです。
比較的小さいスペースで飼育できる淡水魚などは結構ガイドラインが整ってきているように見えますし、逆に大型動物のガイドラインはなかなか定めるのが難しそうです。

海獣や鰭脚類の仲間については、適正施設ガイドラインが示されているのは、2025年7月現在でトドとカリフォルニアアシカの2種のみ。イルカやクジラの仲間で示されている種はないですし、アザラシの仲間で示されている種もありません。トドとカリフォルニアアシカのガイドラインも作られたのが2025年2月となっているのでとても新しい。

まさに現在進行形で整備中、、、というところでしょうか。

2025年8月2日付記:この記事を作成した2025年7月時点ではアザラシの適正施設ガイドラインは無かったのですが、2025年8月2日にJAZAのサイトを見たところ「ゴマフアザラシ属の適正施設ガイドライン」が公開されていました!しかもゴマフアザラシ属だけではなく、カマイルカとバンドウイルカの適正施設ガイドラインも公開されてい!この記事の巻末にJAZAが作成したゴマフアザラシ属の適正施設ガイドラインにもついても紹介しております。

アメリカ農務省の動物福祉法及び動物福祉規則に定められる飼育施設の基準

他にアザラシの飼育施設の基準を考える上で参考になりそうなものはないか、世界を探すとアメリカ合衆国の農務省(U.S. Department of Agriculture:USDA)が定める動物福祉法及び動物福祉規則(Animal Welfare Act and Animal Welfare Regulations)というものがあります。

日本では動物愛護管理法は環境省が所管ですが、アメリカでは農務省所管というのもお国柄の違いでしょうか。まぁ日本でも牛や豚などの家畜になると農林水産省の所管になりますが。

さて、アメリカの動物福祉規則では、種ごとに細かく飼育時の留意事項や移動時に注意を払う点、また飼育施設の大きさやに関する基準を定めており、海獣類に関してはプールや上陸場の広さに関する基準もあります。

上で紹介したJAZAのカリフォルニアアシカとトドの適正施設ガイドラインでも、このアメリカの動物福祉規則規則の基準の数字をそのまま参考転記しているので、JAZAがアザラシ類のガイドラインを作成する際にも参考にする可能性はかなり高いと思われます。

アメリカの動物福祉規則トドの適正飼養ガイドラインの基準となる値は、以下のとおりとなっておりますが、JAZAのガイドラインにおいても「アメリカの飼育基準」と明記されています。

トドの飼育環境の基準(JAZAの適正施設ガイドライン:トドを引用)

性別頭数成獣平均体長(m)MHD:水槽最低水平距離(m)最小水槽水深(m)最小水槽容量(㎥)最小陸上面積(㎡)最小水面面積(㎡)
12.864.291.4317.5412.2612.26
12.43.61.29.678.068.064

この数値はアメリカ飼育基準であり、今後日本国内での飼育基準検討の参考としたい。また、各施設での新規施設建設時の参考としていただきたい。
※ アメリカ飼育基準の設定ではトドの平均体長よって算出されている。雌雄飼育頭数によって最低基準が異なる。

JAZA 適正施設ガイドライン トド(https://www.jaza.jp/assets/document/about-jaza/guideline2020/guideline2025-04-01.pdf)

このように飼育施設のプールの水深や体積、面積、上陸場の面積などが、具体的な数字で定められているのがアメリカの動物福祉規則の基準になります。

ゼニガタアザラシ暮らすプール(釧路動物園)

アメリカの動物福祉規則におけるアザラシ飼養施設の基準について

アメリカの動物福祉規則そのものはこちら(https://www.aphis.usda.gov/animal-welfare/downloads/AC_BlueBook_AWA_508_comp_version.pdf)から確認はできます。JAZAのトドの適正施設ガイドラインには基準の数値のみの引用となっておりますが、アメリカの動物福祉規則には具体的な数値を算出する計算式などもあるので、その辺りの計算方法も含めて、アザラシを飼育する施設の基準を紹介したいと思います。

アメリカの動物福祉法&規則は350ページにわたる大作!そのうち海棲哺乳類に関する細かい飼育基準は規則(REGURATIONS)の”PART 3-STANDARDS”内のサブパートEに記載されています。

ちなみにその他のサブパートですが、Aが犬猫、Bがモルモットとハムスター、Cがウサギ、Dが類人猿、Gが鳥類、FがA~E・G以外の動物となっています。面白い分け方です。

さて、このサブパートEでは海生哺乳類の取り扱い全般について書かれており、病気の時の処置のあり方、移動の時の留意点、給水と排水の考え方、観察する公衆からの嫌がらせを防ぐ、、、等々とても幅広なことが書かれてあり興味深いのですが、今回は飼育施設(プール)周りの基準に絞って紹介します。ざっくりとした私の英語能力による訳なので間違いがあるかもしれません。また基準は最低限満たすべき、クリアすべき数字として扱われています。また、動物福祉規則の海生哺乳類パートは鯨類(イルカやクジラ)と鰭脚(アシカとアザラシ、セイウチ)、ラッコに分かれていて、基準が示されていますが、今回は鰭脚のアザラシに特化して紹介します。

アザラシなどの鰭脚類の飼育施設の基準は、種の特性に応じてグループⅠとグループⅡに分けて、種ごとにの標準的な体長の基準を定めています。このグループごとに、種の標準的な体長に応じて、最低限のプールの広さや長さの基準を決めています。

グループⅠとⅡって何ぞやという感じなのですが、まぁあまり気にしなくて大丈夫です。
日本近海に生息するアザラシではゴマフアザラシ、ゼニガタアザラシ、クラカケアザラシはグループⅠ、ワモンアザラシ、アゴヒゲアザラシはグループⅡに分けられています。他、トドやキタオットセイ、カリフォルニアアシカ、セイウチなどの主なヒレアシたちもグループⅠ。

このグループ分けの根拠の詳細はわからないのですが、種の特性で分けているのかな。世界全体のアザラシ、アシカで見れば、グループⅠに分類される種がほとんどで、グループⅡはワモン、アゴヒゲの他にはズキンアザラシの計3種のみです。

なお上図がグループⅠとⅡの分類を定めている図のグループ1の部分ですが、赤囲み部分のPhoca largaはゴマフアザラシ、Phoca vitulinaはゼニガタアザラシの学名ですが、アメリカの動物福祉規則では両方とも”Harbor Seal”にまとめられているのも興味深い。ゴマフアザラシ(spotted seal)は使わないのかな。確かにあちらのゼニガタアザラシは日本のゼニガタアザラシに比べて色が薄くて、ぱっと見はゴマフアザラシっぽいのです。

それはともかく、日本近海のアザラシのグループ別と雌雄の標準体長をアメリカ動物福祉基準に基づきまとめると以下のようになります。

種名グループオスの標準体長(m)メスの標準体長(m)
ゴマフアザラシ1.701.50
ゼニガタアザラシ1.701.50
クラカケアザラシ1.751.68
ワモンアザラシ1.351.30
アゴヒゲアザラシ2.332.33
https://www.aphis.usda.gov/sites/default/files/ac_bluebook_awa_508_comp_version.pdf TABLEⅢ

アザラシ飼育で必要な最小の陸上エリア(DRA)の面積は?

グループⅠの種について、最小の休息または社会活動を行うエリア(規則の中ではDRA:the dry resting or social activity area.おそらく陸上で休めるような陸地面積と思われます。)の面積は、各種の体長から計算することとなっています。その計算方法は以下のとおり。

グループⅠの種を一頭で飼育する場合は
DRA=2×(その種の平均成体長)2

(=その種の平均成体長を1辺とする正方形の2倍の面積ということですね。)

そして2頭目以上の個体を同時に飼育する場合は、単純に足し合わせていくようです。
DRA=(飼育する種の平均成体長)×(同じ区域で飼育する個体数)
(=平均成体長と1辺が同じ長さの正方形を頭数分足し合わせていくイメージ。)

If only a single Group I pinniped is maintained in the primary enclosure, the minimum dry resting or social activity area shall be twice the square of the average adult length of that single Group I pinniped.

Examples: (average adult length)2 of 1st Group I pinniped+(average adult length)2 of 2nd Group I pinniped=Total DRA for two pinnipeds
DRA for one pinniped=2×(average adult length of Group I pinniped)2

(グループⅠの種では、オス1頭で飼育する場合より、オス1頭+メス1頭で飼育する方がDRAは狭くて良いとなってしまう?)

グループⅡの種はややこしくて、同じプールの中で飼われているアザラシをリストアップして、体長が長い順に並べる、最も長い個体種の平均成体長の2乗に1.5を、2番目に長い個体種の平均成体長の2乗に1.4を、3番目に長い個体種の平均成体長の2乗に1.3を、4番目に長い鰭脚類の平均成体長の2乗に1.2を、5番目に長い鰭脚類の平均成体長の2乗に1.1をかける。6番目以降は鰭脚類の平均成体長を2乗していって、得られた数値を足し合わせる、、、そうです。まとめるとこんな感じでしょうか。
(グループⅡ)DRA=(同時に飼育する中で1番目に体長が長い種の平均成体長)2×1.5
+(同時に飼
育する中で2番目に体長が長い種の平均成体長))2×1.4
+(同時に飼育する中で3番目に体長が長い種の平均成体長))2×1.3
+(同時に飼育する中で4番目に体長が長い種の平均成体長))2×1.2
+(同時に飼育する中で5番目に体長が長い種の平均成体長))2×1.1
+(同時に飼育する中で6番目に体長が長い種の平均成体長))2
+(以降飼育頭数に応じて(各種の平均成体長)2)を足し合わせる。

ii. Group II pinnipeds. List all pinnipeds contained in a primary enclosure by average adult length in descending order from the longest species of pinniped to the shortest species of pinniped. Square the average adult length of each pinniped. Multiply the average adult length squared of the longest pinniped by 1.5, the second longest by 1.4, the third longest by 1.3, the fourth longest by 1.2, and the fifth longest by 1.1, as indicated in the following example.
Square the average adult length of the sixth pinniped and each additional pinniped. Add the figures obtained for all the pinnipeds in the primary enclosure to determine the required minimum dry resting or social activity area required for such pinnipeds. If only a single Group II pinniped is maintained in the primary enclosure, the minimum dry resting or social activity area must be computed for a minimum of two pinnipeds.
Examples: DRA for 1 Group II Pinniped = [(Average adult length)2 × 1.5] + [(Average adult length)2 × 1.4]

グループⅠに比べて1頭辺りの面積は、単純に体長の2乗(=体長を1辺とした正方形)より広い面積が必要とされています(1頭飼育の場合を除く)。グループⅡはⅠの種より神経質ということなのでしょうか。

また若干ややこしいことに「グループIIの海獣が1頭のみ飼育されている場合、DRAは最低2頭の海獣を基準に計算しなければならない。」という記載もあります。ちょっと解釈をしかねるのですが、グループⅠの種で1頭で飼育する場合と同様、2倍の面積が必要ということかな?

If only a single Group II pinniped is maintained in the primary enclosure, the minimum dry resting or social activity area must be computed for a minimum of two pinnipeds.

なおグループⅠとグループⅡの種を混ぜて飼育する場合は、グループⅡの基準に基づいてDRAを計算することとなっています。また治療のなどのための一時的に収容される施設については、この基準の適用外となる規定も設けられています。

アザラシ飼育で必要最小のプールの表面積は?

陸上の面積に続いて、プールの面積はどうなっているのでしょうか。これはとても単純で、プールの最低限の表面積=陸上の面積DRA)となっています。つまり上で求めたDRAと同じ面積です。

3. ⅰ. The minimum surface area of a pool of water for pinnipeds shall be at least equal to the dry resting or social activity area required.

プール内の最低水平距離(MHD)は?

続いてプール内の最低水平距離(MHD:Minimum horizontal dimension)は以下のように定義されています。

Minimum horizontal dimension (MHD) means the diameter of a circular pool of water, or in the case of a square, rectangle, oblong, or other shape pool, the diameter of the largest circle that can be inserted within the confines of such a pool of water.

わかりやすく言うと、MHDとは”動物の飼育プールや水槽の横幅や奥行きの最も短い長さ”、つまり動物が泳げる範囲の中で、一番狭い方向の長さ」です。なぜMHDが重要かというと、表面積は十分にあっても極端に幅が狭いプール(例えば縦20m×横0.5mのプールとか)の場合、アザラシが自由に泳ぐことは困難になります。なので、アザラシが泳げるようにプールにはある程度”広がり”が重要、、、という概念からMHDの基準が定められていると思われます。

そしてこのMHDの基準は体長×1.5倍となります。体長の1.5倍程度の長さの空間があれば最低限は泳ぐことができるだろう、ということになるのと思います。

なお複数種、複数個体が同一プールに飼育される場合は、MHDは最長種の基準に合わせるとされています。

プールの水深の基準は?

そしてプールの深さは、”少なくとも0.91メートル、またはそこに収容される種の平均成体の体長の2分の1のいずれか大きい方”となっています。日本近海に生息するアザラシで考えた場合、ゴマフ・ワモン・クラカケ・ゼニガタアザラシのプールの水深は0.91m以上、アゴヒゲアザラシは1.165m以上となります。

iii. The pool of water shall be at least 0.91 meters (3.0 feet) deep or one-half the average adult length of the longest species of pinniped contained therein, whichever is greater.

複数種、複数個体が飼育される場合は最長種の基準に合わせるとされています。

また、”最小深度要件を満たさない部分は、乾燥休息および社会活動エリア(DRA)の計算に使用することはできず、また、プールの MHD または必要表面積の一部として使用することもできない”とされています。簡単に言えば「プールに浅い部分があったとしたらその部分は諸々の計算可能なエリアに含まれないですよ」ということか。これは地味に厳しい。。。

Parts of the pool that do not meet the minimum depth requirement cannot be used in the calculation of the dry resting and social activity area, or as part of the MHD or required surface area of the pool.

アメリカ動物福祉規則のアザラシの飼養基準をまとめる

さて、以上のとおり見てきたアメリカ農務省の動物福祉規則に基づくアザラシの飼養施設基準を日本近海に生息するアザラシ5種に適用して、まとめると以下のような形になります。

種名成獣平均体長(m)最小陸上面積(DRA)(㎡)最小水面面積(㎡)MHD:水槽最低水平距離(m)最小水槽水深(m)
グループⅠ
・ゴマフアザラシ
・ゼニガタアザラシ
・クラカケアザラシ
Xとする
1頭飼育の場合:
2×X2

2頭以上の場合:
それぞれの個体のXを足し合わせる
=最小陸上面積(DRA)X×1.5各種共通:0.91
グループⅡ
・ワモンアザラシ
・アゴヒゲアザラシ
Xとする(最長X)2×1.5+(2番手X)2×1.4+(3番目X)2×1.3+(4番目X)2×1.2+(5番目X)2×1.1+(6番目X))2
+(以降飼育頭数に応じて(X2)を足し合わせる。)
=最小陸上面積(DRA)X×1.5ワモン:0.91
アゴヒゲ:1.165

Xの値は以下の表の成獣平均体長を使用します。

種名グループオスの成獣平均体長(m)メスの成獣平均体長(m)
ゴマフアザラシ1.701.50
ゼニガタアザラシ1.701.50
クラカケアザラシ1.751.68
ワモンアザラシ1.351.30
アゴヒゲアザラシ2.332.33

※グループⅠとⅡの種を混ぜて飼育する場合は、グループⅡの基準が適用されます。

またこれらの基準は当然ながら治療や治療訓練のスペースにはこれらの基準が適用されないとの記載もあり、例外となるケースがあることも認められています。

アメリカの動物福祉規則の飼育施設基準をクリアするアザラシのプールを考えてみよう

数字や数式の羅列ばかりで面白くないので、ここでは具体的なアザラシ飼育施設を想定して考えてみましょう!

ゴマフアザラシを2頭(オス1頭・メス1頭)を飼育する場合

まずはわかりやすいゴマフアザラシをペアの2頭(♂1、♀1)を飼育する施設を想定してみましょう。ミニマムな感じですね。ゴマフアザラシのオスの成獣平均体長は1.70m、メスは1.50mなので以下のような具合になります。

飼育個体内訳成獣平均体長(m)最小陸上面積
(DRA)(㎡)
最小水面面積(㎡)MHD:水槽最低水平距離(m)最小水槽水深(m)
ゴマフ(♂):1個体
ゴマフ(♀):1個体
ゴマフ(♂)1.70
ゴマフ(♀)1.50
1.702+1.502=5.14m21.702+1.502=5.14m21.70×1.5=2.55m0.91m

これが広いか狭いか、m2換算だと伝わりにくいと思いますので、日本人になじみ深い畳計算に関すると、日本の6畳(1畳は6尺(182cm)×3尺(91cm)で計算)が約10平方メートルなので、6畳一間のうち、半分が陸、もう半分がプール(水深0.91m)となっている空間で、ゴマフの♂と♀が2頭で暮らしているくらいの感覚です。6畳一間で大人2暮らし、、と人間に置き換えると、まぁ確かに”最小”かつ”最低”の空間という感じで、「もう少し広いところで飼ってあげて。。。」という感覚になります。同じようにいろいろ計算してみましょう。

ゴマフアザラシを9頭(メス)を飼育する場合

ゴマフアザラシを9頭(メス)を飼育する場合を計算しましょう。イメージはオホーツクとっかりセンターのメスのゴマフアザラシたちのプール。

こんな具合にメスのゴマフアザラシが9頭同じプールで暮らしている時がありました。このようなシチュエーションを想定して計算してみると。

飼育個体内訳成獣平均体長(m)最小陸上面積
(DRA)(㎡)
最小水面面積(㎡)MHD:水槽最低水平距離(m)最小水槽水深(m)
ゴマフ(♀):9頭ゴマフ(♀)1.501.502×9=20.25m21.502×9=20.25m21.50×1.5=2.25m0.91m

9頭の大所帯になると、かなり最小陸上面積と水面面積が増えまして、両方を合わせて40.5m2。12畳が約20m2なので、12畳の陸地とプールで構成される感じ。だいぶ広くなったとはいえ、9人暮らしとなるとやはり物足りないか。あくまでこれは最低限の基準ということを忘れてはなりません。
なお、実際のとっかりセンターのプールは12畳より広いでしょうし、陸地面積も共有的な部分も入れれば12畳よりはるかに広いように思います。

ゴマフアザラシ(♂1頭)、ワモンアザラシ(♀1頭)、アゴヒゲアザラシ(♂1頭、♀1頭)を飼育する場合

同じくオホーツクとっかりセンターの昔のプールの事例で、ゴマフアザラシ(♂1頭)、ワモンアザラシ(♀1頭)、アゴヒゲアザラシ(♂1頭、♀1頭)の計3種4頭を飼育する場合をイメージしましょう。

だんだん難問になります。まずグループⅠのグループⅡの種が混ざっているので、グループⅡの計算が適用されます。

飼育個体内訳成獣平均体長(m)最小陸上面積
(DRA)(㎡)
最小水面面積(㎡)MHD:水槽最低水平距離(m)最小水槽水深(m)
ゴマフ(♂):1頭
ワモン(♀):1頭
アゴヒゲ(♂):1頭
アゴヒゲ(♀):1頭
ゴマフ(♂):1.70
ワモン(♀):1.30
アゴヒゲ(♂):2.33
アゴヒゲ(♀):2.33
(2.33)2×1.5+(2.33)2×1.4+(1.70)2×1.3+(1.30)2×1.2=21.5m221.5m22.33×1.5=3.495m1.165m

最小陸上面積と水面面積がかなり増えまして、両方を合わせて43m2。ゴマフ(♀)9頭暮らしより広い面積です。

アゴヒゲ、ワモンアザラシのグループⅡの種が入ってくると、ゴマフアザラシより広いスペースが必要になることがわかります。

カリフォルニアアシカ4頭(♂1頭と♀3頭)とゴマフアザラシ5頭(♂1頭♀4頭)を飼育する場合

最後は「マリンワールド海の中道のかいじゅうアイランド」のプール。カリフォルニアアシカ4頭(♂1頭と♀3頭)とゴマフアザラシ5頭(♂1頭♀4頭)を飼育しています。私が見に行った時、実際の施設では複数のプールに分けてこれらの個体を飼育されていたと思いますが、これを一つのプールで飼育すると仮定して計算します。

ゴマフアザラシもカリフォルニアアシカもグループⅠの種なので、以下のとおり計算します。カリフォルニアアシカのオスが成獣平均体長最大扱い種となります。

飼育個体内訳成獣平均体長(m)最小陸上面積
(DRA)(㎡)
最小水面面積(㎡)MHD:水槽最低水平距離(m)最小水槽水深(m)
カリフォルニアアシカ(♂):1頭
カリフォルニアアシカ(♀):3頭
ゴマフアザラシ(♂):1頭
ゴマフアザラシ(♀):4頭
カリフォルニアアシカ(♂):2.24m
カリフォルニアアシカ(♀):1.75
ゴマフ(♂):1.70
ゴマフ(♀):1.50
(2.24)2×1+(1.75)2×3+(1.70)2×1+(1.50)2×4=26.1m226.1m22.24×1.5=3.36m2.24/2=1.12m

9頭の大所帯で、カリフォルニアアシカの平均体長が長めなので、ゴマフアザラシだけを9頭飼育するより広いスペースが求められます。

今後、日本でもアザラシ飼育における適正施設ガイドラインが制定されるか?

冒頭書いた通り、この文を打っている2025年7月現在、JAZA(日本動物園水族館協会)はアザラシ飼育における適正施設ガイドラインは公表しておりません。そして上述した通り、トドとカリフォルニアアシカの適正施設ガイドラインはアメリカ農務省の動物福祉基準を参考に取りまとめているので、アザラシの適正施設ガイドラインも同様に制定される可能性は非常に高いと思います。

一方で、日本でアザラシを飼育している施設数はトドやカリフォルニアアシカに比べても格段に多くあります。よって、アザラシのガイドラインができると影響を受けるJAZA加盟園館も多いと思われます。よってこのアメリカの動物福祉規則を日本の適正施設ガイドラインに輸入した場合、日本の施設はクリアできるか、という点は興味深い。

個人的な推測ですが、陸場の面積、プールの面積はまぁまぁクリアしてくる施設の方が多いと思うのですが、案外クリアできないのが「水槽の水深」ではないかと思います。

特にゴマフアザラシ、ゼニガタアザラシの最小の水深は91cm。これは考えてみると「プールの水深を91cm以上(≒ざっくり言ってゴマフアザラシの体長の半分程度の水深)」になりますが、人間の風呂の水深がだいたい60cm程度と言われていますから、それよりはだいぶ深いことになります。なので”人間の浴槽+α”程度のプールで飼育する場合は、最低水深の基準はクリアできないので、そのような施設もそこそこあるようにも思います。このようにあくまで推奨される施設を作るうえでの目安を示した「ガイドライン」とはいえ、既存のアザラシ飼育施設を考える上でも影響を与えることも考えられます。

ガイドラインなのでクリアできなくても、アザラシを飼育したらダメ!とかになるものではないのですが、アザラシは広い海で生きている種ですから、なるべく広くて、快適な環境で飼育されることを願うばかりです。

2025年8月2日付記:JAZAが”適正施設ガイドライン 【ゴマフアザラシ属 Phoca 】”を公開しました!

上の文章を作成していたのが2025年7月下旬頃で、8月1日に記事を公開したのですが、8月2日にたまたまJAZAのサイトを見ていたところ、ゴマフアザラシ属の適正施設ガイドラインが公開されていました!!何というタイミングでしょう。驚きました。適正施設ガイドラインこちらのJAZAのサイトから確認ができます。

適正施設ガイドライン|日本動物園水族館協会

(↑8月2日現在、上記サイトの「04-03,04_ゴマフアザラシ属ガイドライン_202502」のリンクURLが間違っているようで、ゴマフアザラシ属をクリックしても、カリフォルニアアシカのガイドラインに飛ばされます。google検索を使ってゴマフアザラシ属の適正施設ガイドラインの正しいURLを探るとこちらのようです。)

JAZA作成の”適正施設ガイドライン 【ゴマフアザラシ属 Phoca 】”ではアメリカの動物福祉基準を引用しつつも、私の解釈と異なるところもある

さっそくJAZAが公開された”適正施設ガイドライン 【ゴマフアザラシ属 Phoca 】”を拝見しました。なおゴマフアザラシ「属」となっているので、このガイドラインはゴマフアザラシの他にゼニガタアザラシにも適用されるものになります。

飼育施設の基準は、アメリカの動物福祉規則の数字が紹介され、参考とする扱いになっていました。上で私が示したような数字の出し方までは掲出しておらず、オス、メスそれぞれ一頭ずつを飼育した場合の数字を掲出されております。直感的にわかりやすいと思います。

ゴマフアザラシ属の飼育環境の基準(JAZAの適正施設ガイドライン:トドを引用)

性別頭数成獣平均体長(m)MHD(m)最小水槽水深(m)最小水槽容量(㎥)最小陸上面積(㎡)最小水面面積(㎡)
11.72.550.913.944854.3354.335
11.52.220.912.86653.153.15

※ この数値はアメリカ飼育基準であり、今後日本国内での飼育基準検討の参考としたい。 また、各園館での新規施設建設時の参考としていただきたい。

※ アメリカ飼育基準の設定では雌<雄で設定されているが、実際はゴマフアザラシもゼニガタアザラシもアシカ科と異なり体格の雌雄差はそれほど明確でなく、雄並みの大きさの雌、雌並みの大きさの雄も存在する。それを考慮すると、雄の大きさで考えたほうがよいと思われる。

日本動物園水族館協会:適正施設ガイドライン 【ゴマフアザラシ属 Phoca 】から引用

オス・メスの平均体長はアメリカの動物福祉規則の数字そのまを引用、紹介しつつも、注釈で「体格の雌雄差はそれほど明確ではない」とされているのは、まさにお書きの通り!アメリカのゴマフアザラシ属の雌雄の体系差ははわかりませんが、日本ではゴマフアザラシやゼニガタアザラシに雌雄で大きな体格差はないように思います。

一方で私の解釈・計算結果と、JAZAの適正施設ガイドラインの表の数字で異なるものがありまして、それは最小陸上面積=最小水面面積の数字(JAZAガイドラインではオスは4.335、メスは3.15となっている数字)。
私の解釈ではゴマフアザラシはアメリカ動物福祉規則のグループⅠ種で1頭飼育を想定しているので、最小陸上面積=最小水面面積は単純に平均体長高を2乗にした数字の2倍、つまりゴマフアザラシのオスの場合は1.72×2=5.78m2、メスの場合は1.52×2=4.5m2と解釈したのですが、JAZAの適正施設の基準の数字はそれより小さい(オス4.335m2、メスは3.15m2)数字です。

”この差はどこから来るのか、JAZAも表にある成獣の平均体長を使って計算したとは思うのだが、、、”と思いながら、数字をごにょごにょしていると、オスの方は4.335=1.72×1.5であることに気づきました。同様にメスの方は、3.15=1.52×1.4です。

ゴマフアザラシ属のオスの最小陸上面積(㎡)ゴマフアザラシ属のメスの最小水面面積(㎡)
JAZAの飼育施設ガイドライン4.335=1.72×1.53.15=1.52×1.4
私のアメリカ動物福祉基準の解釈・計算5.78=1.72×24.5=1.52×2

“1.5”と”1.4″という数字について、アメリカの動物福祉規則の計算で用いられているものとなると、グループⅡの複数個体を一緒に飼育する場合の計算方法で使った数字ではあるのですが、今回はグループⅠのゴマフアザラシ属の話ですし、またオスとメスを混ぜて飼育するケースを想定しているものでもないでしょうから(もし混ぜて飼育するならMHDは長い個体・種に合わせるので、この場合はオスの基準に合わせることになる。)、私も若干混乱しております。ゴマフアザラシとゼニガタアザラシの基準で1.5や1.4の計数掛けをすることはないと思うし、グループⅠでもⅡの計算を用いる例外ケースも何個かあるようなので、どこか見落としがあるか?あとグループⅠ種は1頭飼育の場合とそれ以上の個体数の飼育の場合で計算手法に差があって、単純な足し合わせではないので、そこの解説も入れないとまずいんじゃ、、、と思ったりもしました。

少し時間をおいて頭を冷やしてから、アメリカの動物福祉規則とJAZAのゴマフアザラシ属の飼育施設の基準を読み返してみようと思います。私が間違っているのか、JAZAが間違っているのかわかりませんが、いずれにせよ、何かアザラシを飼育する施設を作ろうとしていて、基準を確認したい方はアメリカの動物福祉規則の原本を確認することをおすすめします。↓がリンクです。

https://www.aphis.usda.gov/animal-welfare/downloads/AC_BlueBook_AWA_508_comp_version.pdf

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