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新潟の夏の郷土料理「くじら汁」を海獣好き目線で解説。くじら汁に入れるクジラの種類で味が激変するので塩皮くじらの”鯨種”にも注意ください。

7月に入り、真夏日も増えてきて、いよいよ夏到来です。夏になると新潟っ子たちが食べるのが枝豆くじら

あまり他県に知られていないと思いますが、新潟では夏にくじら汁を食べるのが定番なのです。この文を打ち込んでいるのは2024年7月14日ですが、新潟の地場スーパーマーケット・ウオロクさんの7月13日-15日のチラシにはくじら汁用の塩皮クジラの特売情報が載っていました。これほどくじら汁は新潟ではメジャーな存在なのです。

新潟の「くじら汁」は農林水産省の郷土料理紹介コーナーでは、以下のように掲載されています。

  • 主な伝承地域:中越地方(新潟の真ん中らへん)、下越地方(新潟の北側・新潟市は下越地方に含まれる)
  • 主な使用食材:塩クジラ、なす、人参、ゆうがお、ねぎ、じゃがいも、豆腐、味噌
  • 歴史・由来・関連行事:「くじら汁」は、塩漬けにしたクジラの皮の脂身を野菜と一緒に味噌で煮た郷土料理。新潟は北前船の影響で他所のさまざまな文化が根付いており、「くじら汁」もそのひとつである。その昔、西日本で獲れたクジラが塩漬けにされて、北前船で新潟に運ばれていた。クジラの脂肪は、健康に良いとされる不飽和脂肪酸を多く含み、新潟では、特に真夏の暑い時期にスタミナ食として食べていた。こってりとした味わいが魅力で、野菜はなすを入れるのが必須。地元で採れる丸なすを使い、長岡市近辺ではかんぴょうの材料になるゆうがおも欠かせない材料のひとつ。味噌仕立てで食べるのが主流だが、醤油仕立てで食べたりもする。保存ができる塩漬けのクジラを使うため、海がない山間地でも食べられていた。
  • 食習の機会や時季:使用する材料は塩クジラのほか、新潟市周辺では「なす」、中越地方では「ゆうがお」が多く使われ、夏に食す人が多い。一方、下越地方の阿賀町では、山菜の「うるい」を使い、春に食す人が多いようである。
  • 飲食方法:塩クジラは、塩出ししてから調理する。出汁をとり野菜を煮て、やわらかくなったら塩出ししたクジラを入れる。味噌を加えて味をととのえる。クジラに塩気があるので、味噌は加減しながら加えると良い。好みで七味を入れていただく。
  • 材料(4人分):
    【材料A】塩クジラ 30g 小麦粉 大さじ1
    【材料B】水4カップ 煮干し 15g
    丸なす 1個
    たまねぎ 1/2個
    みょうが 2個
    酒 大さじ2
    味噌 大さじ2と1/3
  • 作り方:
    1. 鍋に分量に材料Bを入れ、30分程度おく。
    2 .塩クジラは薄く切り、小麦粉をもみ込む。水で洗い流し、たっぷりのお湯で2~3回ゆでこぼす。
    3 .丸なすは食べやすい大きさに切り、たまねぎは薄切りにする、みょうがは千切りにする。
    4 .1の鍋を中火にかけ、煮立ったらアクを取る。弱火にし、5~10分煮て、煮干しを取り出す。
    5 .4に酒を加え、クジラ、丸なす、たまねぎを入れ、火を通す。
    6 .味噌を溶き入れ、煮立つ直前に火を止める。お椀に盛り、みょうがをそえる。
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/kujira_jiru_niigata.html
(太字強調は当サイト)

こちらにも書かれているとおり、くじら汁は真夏に夏バテしないように食べるスタミナ料理なのです。農水省サイトに書かれている内容は、概ね私の頭の中のくじら汁のイメージ通りなのですが、掲載されているくじら汁写真やレシピはお役所サイトだからなのか上品な感じもします。

この農林水産省サイトの他、新潟市JAグループ新潟Cookpadでの個人等々、いろいろな新潟関連の組織や個人でくじら汁の情報やレシピを発信されています。

一方で、これらのサイトでは、くじら汁の根幹とも言えるとても大事な視点が抜けているのです。それは使用するクジラの種類。いずれのサイトでも材料には「塩クジラ」としか書いていません。くじら汁の味は独特でパンチがあり、地元の方でもくじら汁は勘弁という方も結構いるのですが、これはクジラの種類によってくじら汁の癖の強さ、味の強烈さは異なってくることも一因だと考えます。

海獣好き・くじら汁好きとしてはクジラの種類にはこだわってみたい。今回はクジラの種類による味の変化ぶりも意識しながら、新潟のくじら汁への熱い想いを書こうと思います。

新潟の人が頭の中で想像する「クジラ」は白と黒のツートンカラーの「塩クジラ」

新潟のクジラ汁に入れるのは「塩クジラ」。おそらく新潟の人にクジラの食べる部分を頭の中にイメージしてもらうと、思い浮かべるのはこの塩クジラだと思います。売られている状態はこんな見た目をしています。

肉ではなく、皮(黒い部分)とその下にくっついている脂身(白い部分)塩漬けです。

冗談ではなく、私はクジラの可食部分といえばこの白と黒のツートンの物体であると物心ついた時から認識しておりまして、県外に住んで牛肉のような色をした赤身のクジラ肉を見て驚いたものです。

我が家の「くじら汁」の面構え&調理方法

昨年の帰省時に母がくじら汁を出してきたので写真に撮ってきました。

具はクジラの他、ナス、ユウガオ、豆腐、ジャガイモ、玉ねぎ、エノキなどが中心で、味噌で味を付けています。この写真撮影時の塩クジラはツチクジラの皮でした。

クジラ以外の具は、母はかなり適当で、その日手に入る材料でアレンジしている様子。この日も「本当はユウガオ(かんぴょうの材料。詳細はこちら)が良いのだけど、手に入らなかったのでナスを入れた」とのこと。要は「くじら汁」=「塩クジラと夏野菜を具とした味噌汁」のようなものです。

農林水産省サイトの紹介では「新潟市周辺では「なす」、中越地方では「ゆうがお」が多く使われ、」とありますが、母は中越地方の産まれ、父は新潟市周辺の下越地方の産まれで、つまり母の嫁ぎ先は下越周辺になるので、中越と下越が混ざっているのかもしれません。母は「本当はユウガオが良かった」と言ってたので、産まれた場所のほうが強いか。
そして母曰く「子どもの頃は真夏は毎日くじら汁だった」というほど食べていたようです。

表面に凶悪な量のクジラの脂が浮くのが新潟のくじら汁

新潟のくじら汁の見た目の特徴は何といっても表面に浮かぶクジラの脂!

クジラは欧米では鯨油目的で乱獲されたほどの生物ですから脂はたっぷり。くじら汁の表面は脂で覆いつくされます。

表面のドアップ。こんな感じです。この脂の量ゆえに夏のスタミナ料理となっていのです。

誰もが幼い頃に醤油ラーメンの表面に浮く脂をつなぐ遊びを行うと思うのですが、私は脂つなぎはラーメンではなく、このくじら汁でやっていたなー。

新潟のくじら汁の味を決定づけているのはクジラの脂

見た目だけではなく、くじら汁の味を決定づけているのもクジラの脂です。クジラ油は味の癖が強いので、新潟産まれの方でもくじら汁を苦手としている方も多いですし、他県から移住されてきた方でも苦手な方は多い。枝豆は癖がなく万人受けするのですが、くじら汁は両極端な反応。

私はくじら汁は好物ですが、母の兄の息子(私の従弟:新潟の隣の長野県育ち)は、このくじら汁が大っ嫌いですし、他県育ちの私の妻も食べるけど凄い食いつく感じではないです。

こちらの研究でも、『喫食経験者のうち「好き」は46%、「嫌い」は24%であった。』そうです逆に考えれば食べた人のうち4人に1人は嫌いになってしまうのです。。。

新潟県の郷土料理‘くじら汁’に関する調査研究
J-STAGE

なお冒頭で紹介した農水省サイトのレシピを見て私が「上品だなー」と思った理由は
「2 .塩クジラは薄く切り、小麦粉をもみ込む。水で洗い流し、たっぷりのお湯で2~3回ゆでこぼす。」の部分です。クジラの脂と味のクセを抜きに掛かっています。万人受けする味になりそうだと思います。なので農水省サイトの完成品写真はくじら汁の脂が抑えめですし、上品な印象。ちなみに我が母は塩抜きも湯通しもせず、直で塩クジラをぶち込みますので脂も癖もハードモード。農水省レシピと母レシピではなんというか、清酒とどぶろくのような感じかも。。。

新潟のくじら汁で使用されるクジラの種類について

新潟のくじら汁で使われるクジラの種類ですが、新潟には捕鯨基地や捕鯨で栄えた港はありません。なので、冒頭の農水省サイトの引用通り、古くは北前船が運んでくるクジラを使っていて、現在も外部からの流入に100%頼っています。新潟ではおそらくクジラの種類にこだわりはなく、くじら汁の材料に使用されてきたと想像します。

ただ海獣好きとしては、現在流通しているクジラの種類も気になるので、地場スーパーを回ったり、我が家の冷蔵庫に貯蔵されている塩クジラをチェックしてきました。

簡単に見つけられたのは以上の3パック。少し細かめに見ていきましょう。

まずはこちら。ブロックではなくじら汁用に短冊状に切られた状態で売られていました。「塩皮くじら(べビー)」とあります。原材料名欄から千葉で獲れたツチクジラのようです。99円/100gは安い。そして「広告の品」とあるとおり、塩クジラは新潟では極めて普通に売られていているものです。塩蔵&ほぼ脂身なので賞味期限が1カ月と長いのも特徴です。

次はこちら。商品名に「塩皮ツチくじら」とあるので、ツチクジラでしょう。398円/100gで上の商品より4倍の値段。ただし父が半額になったものを買ってきた様子。

側面のラベルを見ると原材料名があって、「ツチ鯨皮(北西太平洋産)」とあるので、おそらく日本の太平洋側EEZ内で捕獲されたものではないだろうか

最後がこちら。商品名が「塩クジラ(ミンクくじら)」とあるので、ミンククジラです。値段はこれまでのツチクジラと一線を画す680円/100gです。高級品。

パックの裏にもラベルがあって、原材料名があり「ミンクくじら(皮)(ノルウェー)」とのこと。ノルウェーからの輸入品のようです。ノルウェーも捕鯨国のひとつなのです。冒頭に紹介したウオロクさんの広告のクジラもノルウェー産のミンククジラでした。

ノルウェーの捕鯨 - Wikipedia

とりあえず、2023シーズンの終わり頃に見つけられたのがこの3製品。私の記憶ではこの他、ナガスクジラのくじら汁で食べた記憶があるのですが、ひとまず昨年は確認できませんでした。他のクジラ種の利用についても引き続き、情報収集をしたいと思います。

【超重要】使用するクジラの種類や保存方法でくじら汁の味が激変!レベルに応じたクジラを選んで欲しい

新潟のくじら汁解説であまり触れられることがないのですが、上で書いた通りくじら汁の味の最重要の要素はクジラで、どのクジラを選ぶかで、親しみやすい上品系のくじら汁になるか、癖強の地元っぽいくじら汁になるか分かれます。

結論から書くと、上品系の味を目指す方、初心者・馴れていない方、一度食べたけどいまいちだった経験を持つ方は、保存状態の良いミンククジラ(もしくはナガスクジラ)のヒゲクジラ系を選ぶべきです。ヒゲクジラ系は癖も控え気味で食べやすく上品ですが、とはいえ味はきちんとくじら汁なのでハードル低くくじら汁を楽しめると思います。難点はツチクジラに比べ値段はお高めな点。とはいえ試しに食べるくらいなら小さめ1パックでも十分だと思いますので、ぜひ最初はヒゲクジラ系のくじら汁を食べてみてください。

そして上で紹介もしたツチクジラは流通量も多く値段も安い一方で、癖は強いです。悪く言えばクジラ臭さ、生臭さが強めに出ます。ツチクジラの場合は農水省レシピの通り何回か湯通しして脂や臭みを抑えるのも有効かもしれません。保存状態も大事で、古くなると臭みが増すので、買ってきたら出来るだけ早く食べましょう。慣れてきたらぜひ挑戦していただきたいです。

プランクトンや小魚などを食べるナガスクジラやミンククジラなどのヒゲクジラ系のほうが、ハクジラの仲間のツチクジラより臭みが控えめというのは何となくイメージしやすいです。

なお、上の方でも掲載した↓ツチクジラは購入してから2カ月くらい家で冷凍されていたもので、色も茶色っぽく変色しています。食べられないことは無いのですが、これは私でも「臭いきつめだなぁ。。。」と思いながら食べた記憶があります。。。

前に引用した研究で、『喫食経験者のうち「好き」は46%、「嫌い」は24%であった。』という結果ですが、どのクジラを使ったくじら汁だったかも気になります。ツチクジラの脂強め癖強めのくじら汁経験なら苦手だと思う方が多いように思います。

是非クジラの種類にこだわって新潟のくじら汁を召し上がっていただきたい

夏の新潟にいらしたらぜひくじら汁を召し上がっていただきたい、、、のですが、くじら汁は家庭料理なので、旅行者の方が食べられる場所があるのかな?居酒屋などの定番になっている枝豆と違って気軽に食べられるところは少なさそうですが、新潟市内にはクジラ料理屋さんがあり、メニューにもくじら汁がありました!

元祖くじらや (新潟/くじら料理)
★★★☆☆3.07 ■本州日本海側では当店だけ! 【くじら料理専門店】で、おいしい鯨料理はいかがでしょうか?

あとは、夏場の地場系のスーパーの鮮魚コーナーには塩クジラは必ず置いてあるので、これを買って自宅で作るのが一番手軽かもしれません。材料の塩皮クジラもミンククジラ・ナガスクジラ・ツチクジラのどれを使うかも選べますし。作り方も上で紹介した農水省レシピの通りにやっても良いと思いますし、もっと簡単にやるなら普通のナスの味噌汁を作って、そこに短冊に切った塩クジラ皮を放り込めば、だいたいクジラ汁になると思います。

夏の新潟に行かれたら、ぜひくじら汁を試していただけたらと思います!

なお、クジラは哺乳類ですが、新潟のスーパーマーケットでは塩クジラは「鮮魚コーナー」に置いてあります。「精肉コーナー」には置いていないので捜索時には注意くださいませ。。。

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